こんにちは。エネルギー・文化研究所(CEL)の鈴木隆です。3回目の今回は、マーケティングの根本となるこころ、人間の心理のとらえ方を見直そうという話です。前回の“三色団子マーケティング”でいえば、団子を貫く串にあたる内容になります。
■前回の記事
マーケティングは三色団子!?|エネルギー・文化研究所/大阪ガスネットワーク株式会社|note
人間の心理をどのようにとらえればよいのか。前提となる2つの人間観をおさえたうえで、独自の「生身の人間モデル」を提示します。
1.2つの人間観
マーケティングにおける人間観は2つあります。
ひとつは、伝統的な経済学の流れをくむ「完全合理的経済人」です。人間は、あらゆる情報をもとにして合理的に最適な(利潤を最大化する)選択をするものとします。人間をコンピュータになぞらえて、消費者情報処理理論として精緻なモデルがつくられています。人間の理想の姿です。
もうひとつは、生身の人間を直視した「限定合理的経営人」です。人間は、限られた情報をもとにしてそれなりに満足できる選択をするものとします。行動経済学が解き明かしてきたように、わたしたちは合理的とはいえない判断を繰り返してしまうことが少なくありません。人間の現実の姿です。
2.生身の人間モデル
マーケティングのほとんどの教科書は、「完全合理的経済人」を暗黙のうちに前提としています。自然科学を模範とし合理的に研究する執筆者の姿を顧客にも投影しているということができるかもしれません。
机上で計画を立てるだけであれば、「完全合理的経済人」はわかりやすくてよいでしょう。しかし、現場で顧客に対して実践するには、現実を直視した「限定合理的経営人」、それをかみくだいた「生身の人間モデル」でなくては役に立ちません。「生身の人間モデル」であれば、行動経済学が解き明かしたような合理的とはいえない選択が生まれるしくみを理解できるとともに、適切な打ち手を考えることができます。
「生身の人間モデル」は、上の図にあるように、意識のもとでの合理的な理性だけでなく、相互に作用する4つの要素から構成されます。人間の内から外へ順に見ていきましょう。
(1) 無意識
わたしたちは、情報の95〜99%を無意識のうちに処理しています。意識は無意識での判断を追認し、時として拒否するものにすぎないのです。買うよう説得する前に、五感に働きかけなくてはなりません。感覚マーケティングが注目されるようになっているゆえんです。
(2) 感情
感情は、無意識のうちに快不快の判断を瞬時にすることによって、時間のかかる意識した理性の判断を助けています。買うよう説得する前に、感情に働きかけなくてはなりません。昔から「ステーキを売るな、シズル(ジュージューと焼ける音)を売れ」と言われてきたように、感覚・感情への働きかけが有効なのです。
(3) 間主観性
現実は、こころ(主観)とこころ(主観)の間でやりとりされながら生成され変化してゆきます。市場やブランドも、そうしたやりとりを通じて生まれ育ち消えてゆく、こころの生態系です。外から予測するより、内から創発するものです。
(4) 状況
わたしたちは、まわりの状況から気づかないうちにも多大な影響を受けています。広告や商品は、同じ紙面や店内でも、場所を少し変えるだけで売上が大きく変わることが珍しくありません。売り込まなくても売れる状況を創り出すのがマーケティングです。
以上が「生身の人間モデル」の大枠です。意識のもとでの合理的な理性ばかりでなく、4つの要素も踏まえるようにします。詳しい内容は、拙著『マーケティング戦略は、なぜ実行でつまずくのか』の第4章、『御社の商品が売れない本当の理由』の第4章を参照ください。
マーケティング戦略は、なぜ実行でつまずくのか | 碩学舎 (sekigakusha.com)
御社の商品が売れない本当の理由 鈴木隆 | 光文社新書 | 光文社 (kobunsha.com)
「生身の人間モデル」をいわばレンズとして用いることで、顧客の実相がはっきり見えるようになり、適切な手を打てるようになるでしょう。よかったら使ってみてください。「生身の人間モデル」をいわばレンズとして用いることで、顧客の実相がはっきり見えるようになり、適切な手を打てるようになるでしょう。よかったら使ってみてください。