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2023年04月06日 by 前田 章雄

エネルギーよもやま話26 【エネルギーの利用】熱処理は、炭素成分を必要とする?


「エネルギーよもやま話」では、エネルギーに関する情報をワンポイントでわかりやすくお伝えしたいと思います。

 

エネルギーの利用実態として、前回のコラムで鍛造をみてきました。鍛造は刀鍛冶と同じ工程を踏みますが、じつは次の工程である熱処理も同じです。では、詳しくみていきましょう。

 

 

1.刀も鉄鋼製品も、炭素が必要不可欠

 

刀は、二重構造をしています。純鉄に近い柔らかな玉鋼が中心に配置され、その周りを硬い高炭素鋼に挟まれています。当然、表面の刃先には固い高炭素鋼がでています。

 

高炭素鋼とは、その名の通り、鉄に炭素が含まれたものです。鉄原子Feの間に炭素原子Cが入り込むと、結晶構造がひずむため硬くなります(複雑な原理は省略します)。

そして、なぜ刀が二重構造をしているかというと、硬い材質は折れやすいため、柔らかい材質を心材にしているためです。

 

出典)大阪ガス

 

 

刃先まですべて柔らかい材質だと、刃物として役に立ちません。かといって、すべて硬い材質だとポキポキ折れてしまう。そのため、二重構造にしています。

刀では二種類の材質を挟んで、叩いて伸ばせばよいのですが、歯車のように複雑な形状では、そうはいきません。歯車も表面は固くなければ、すぐにすり減ってしまいます。しかし、歯が欠けてしまっては役に立ちません。

 

そこで浸炭処理といって、炭素があまり含まれていない鉄を一酸化炭素が充満した部屋の中で加熱をすることで、表面に炭素成分を強制的に浸入させます。そうすることで、表面だけに炭素成分が多く含まれた状態になります。

 

浸炭処理につかわれる一酸化炭素は、天然ガスやLPGなど燃焼性がよい気体燃料を原料としてつくります。

完全燃焼には全然足りない量の空気で無理やり燃焼させて一酸化炭素を生成するのですが、簡単には燃えてくれません。そこで、1,050℃に加熱した触媒の中を通して、強制的に反応させます。

 

そのようにしてつくられた一酸化炭素が充満した雰囲気の中で加熱するのが、浸炭処理です。鉄と反応した残りの炭素成分は一酸化炭素として排出されますが、アフターバーナで燃やして無害化処理をして、すべて二酸化炭素に変えてから大気へ放散されます。

 

最終的な二酸化炭素の排出を抑える技術開発も検討されてはおりますが、高炭素鋼の原料として炭素成分を利用していることから、完全にゼロにすることは難しいのが現状です。

私たちが普段からなにげに利用している機械設備は多くあります。自動車もそうですし、空調機や冷蔵庫、洗濯機や時計にだって、動くものならなんにでも歯車などの浸炭された部品がつかわれています。これらの部品のほとんどに浸炭処理が施されているのですね。

 

 

2.熱処理だって、刀鍛冶と同じ!

 

「おい、おまえ! 焼き入れたろか?」

ひと昔前の不良が言いそうな、この「焼き入れ」という単語。これは、熱処理の用語です。もっと古くは、刀鍛冶の工程のひとつです。

 

焼き入れとは、真っ赤に焼いた刀を水(人肌の温度のお湯)の中に“じゅんっ”と漬けて急冷させる手法です。

 

 

船舶用ギアの焼き入れ加熱 出典)TONEZ

 

ただでさえ硬い高炭素鋼をさらに焼き入れ処理すると、結晶構造がさらにひずんで、元の数倍の硬さになります。

 

焼き入れで、おもしろい現象があります。急冷すると、元の素材が膨張するというものです。

一般的には、どんなものでも温めれば膨張し、冷やせば収縮します。鉄も通常は同じ動きをします。

しかし焼き入れだけは、冷やせば逆に膨張するのです。水を冷やして氷にしても体積が増えますが、これと同じ現象です。

 

刀は、刃先と逆側に反りがはいった形状をしています。これを焼き入れすると、その反りがさらに大きくなります。

刃のほうが身の部分より薄いので、焼き入れすると早く冷めます。すると、先に膨張するので、反りがさらに大きくなってしまうのですね。

 

こうしたひずみは、どんな部品を焼き入れしても起こります。そのため、どこが先に冷えてどのようにひずもうとするのか、事前に入念な検討をして複雑な形状を決めたり、焼き入れの温度や浸漬時間を決めたりしています。

 

鍛造や熱処理の現場では、真っ赤に熱した鉄を叩いて火花を散らしたり、もう一度真っ赤に焼いた鉄を水に漬けてもうもうと蒸気をあげていたりする古い現場作業のイメージですが、経験則と理論に裏づけされた非常に高度な技術でもあり、最先端の学問でもあるのですね。

 

 

このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。



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