「エネルギーよもやま話」では、エネルギーに関する情報をワンポイントでわかりやすくお伝えしたいと思います。
エネルギーを大量に消費する産業として、製紙業界があげられます。というのも、紙は巨大な設備でつくられているからです。
では、紙をつくるのになぜ巨大な設備が必要なのか、製紙工程をみていきたいと思います。
1.オイルショックでトイレットペーパーが店頭から姿を消したのは、なぜ?
1973年、中東諸国を中心にOPECが結成され、オイルショックによって世界中が大狂乱状態に陥りました。
日本国内では、トイレットペーパーが買いあさられて店頭からなくなる、といった事態が起こります。
ここで問題です。
オイルショックが起こると、なぜトイレットペーパーが店頭から姿を消したのでしょうか?
その理由はふたつ。
トイレットペーパーをつくるのに大量のエネルギーが必要だから。そして、オイルショックでエネルギー価格が高騰しトイレットペーパーがつくれなくなるから、のふたつです。
トイレットペーパーがつくれなくなるというのはガセネタでしたが、エネルギーを大量消費するというのは本当です。こうしたガセネタのせいで、買い占め騒動が起こったのですね。
では、トイレットペーパーがどのようにしてつくられるのか、見てみましょう。
ここでは、一般的な製紙工程でもある抄紙機を考えます。写真にある抄紙機は連続的に紙がつくられる製造ラインですが、向こう側の端がかすんで見えないくらい巨大です。
抄紙機の概観 出典)日本製紙
あまりに巨大すぎて、なにがなんだがサッパリわかりませんが、抄紙機の基本的な原理は、伝統工芸品でもある和紙の紙すきと同じです。
工業生産では、パルプを溶解してシート状に薄く伸ばしながら水分を抜き、高速回転する円筒状のシリンダ表面に張りつきながら連続的に動いていきます。シリンダ内には蒸気が流されており、紙が表面に接触した際の伝熱によって乾燥されます。そして最後は、巨大なロール状に巻き取られます。
製紙の流れ 出典)muse
これらの一連の工程が、超高速で処理されます。紙の種類にもよりますが、紙が1秒間に30mすすむ速さでシリンダが超高速でぶん回され、最後に紙が巻き取られていきます。
2.抄紙機を、なぜ高速でぶん回すのか?
和紙の紙すきでは、自然の力を利用してゆっくりと水抜き・乾燥されますが、工業的に大量生産するには、どうしても大量のエネルギーを人工的に投入してやる必要が生じます。
紙の水分を乾燥させるのに大量の熱が必要ですし、シリンダを高速回転させる電気もたくさん要ります。
一方で、紙は消耗品という一面もあり、高い価格設定ができません。
そのため、大量生産によって紙一枚当たりにかかるエネルギー使用量を下げ、超高速生産することで紙一枚当たりにかかる生産設備の償却費や人件費を低減させています。
このように、製造原単位を極限まで下げる涙ぐましい企業努力をした結果なんですね。
では次に、工場内で蒸気がどのようにしてつくられるのかを考えてみましょう。蒸気はボイラでつくられますが、燃料はできる限り安価なほうが望ましいですよね。
たとえば、工場が人里離れた地域で海辺の港に隣接していたとすれば、安価な石炭を利用するケースもあるでしょう。もちろん、石炭を燃やした際に生じる排気ガスを環境規制値以下になるまで無害化処理していることは、絶対条件です。
しかし、港に近いなどの好条件ばかりとは限りません。すると、重くて陸上輸送が困難な石炭ではなく、タンクローリーで運ぶことができる重油が選択されます。重油においても、排気ガスの無害化処理は必須です。
紙は、需要地に近い場所でつくられることも多くあります。都心部に近くなれば、環境規制がさらに厳しくなります。また、近年は環境規制を守っているだけでは十分ではなく、二酸化炭素の排出を抑えることも求められはじめました。
すると、環境に優しく二酸化炭素の排出がより少ない天然ガスを選択することになります。しかし、天然ガスはほかの化石燃料と比較して高価です。そこで、発電時の排熱を蒸気として利用できるガスタービンなどのコージェネレーション設備を導入するケースが多くなります。
コージェネレーションシステム 出典)春日製紙工業
企業として、生産にかかる経済性を重視しながらも、環境に配慮した高価なエネルギーを選択するという、相反した目的を満たすために、さまざまな省エネルギー対策に取り組んでいるのですね。
このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。