「エネルギーよもやま話」では、エネルギーに関する情報をワンポイントでわかりやすくお伝えしたいと思います。
私たちが生きていくうえで必要不可欠な食品。ごはんや総菜は家庭でも飲食店でもつくられますが、食品工場でもさまざまな食品が大量につくられています。
今回は、大量生産される食品加工とエネルギーの関係について、見てみたいと思います。
1.食品加工は、燃料としての水素と相性が悪い?
食品の製造工程には、煮る・蒸す・焼く・揚げるがあります。焼くには、直火もあれば鉄板の上で炒める形態もあります。
食品工場でも、ご家庭キッチンの煮る・蒸す・焼く・揚げると同じです。大きな鍋、大きなフライパン、大きなオーブンをつかっているだけです。
このように、ある一定の量の食材に対して、ある一定の処理をおこなうことをバッチ処理と言いますが、さらに大量処理する場合は連続処理が必要になります。
連続式焼き物器 出典)フジサワ・マルゼン
写真は、コンベア型の連続式焼き物機です。ステンレス製の網目状のコンベアの上に食品が並べられて、向こう側(といっても、入り口が遠すぎて見えませんが)から投入されて、こちら側から出てきます。出口の高さ(コンベアとの隙間)が低いので、クッキーなどの焼き物用かもしれません。
これと同じ原理で連続してパンも焼きますし、魚も焼きます。炊飯だって、米と水がはいった炊飯釜が連続して流れてきます。コロッケなどの揚げ物の場合は、コンベアが途中で一度下に降りて油の中を通って揚げられたあと、もう一度コンベアが上がってきます。
次に、加熱装置について見てみましょう。加熱装置はコンベアの上についていますが、液だれがしない製品の場合はコンベアの下にもついています。
電熱ヒータによる電気加熱式もありますが、写真の設備には煙突が何本も立っているので、天然ガスやLPGなど燃焼性のよい気体燃料のバーナがついていると思われます。
こうしたバーナの種類にはいろいろありますが、パイプバーナと呼ばれるたぐいの簡単な構造をしたバーナが多くつかわれています。これは、円筒パイプのガス管に穴を開けただけのものです。
パイプバーナ 出典)正英製作所
食品加工機に簡単な構造のバーナを用いる理由として、衛生上の理由が挙げられます。食品工場では、ある一定の時間ごとに水をかけて洗浄します。液だれする食品なら、装置の中まで洗浄します。
そのため、簡単な構造をしたバーナを採用しています。
天然ガスやLPGでは炎が見えますので、専門員が燃焼をつねに目視確認しているという理由で、火炎を自動検出する複雑な装置をつけていないことがあります。
写真の連続式焼き物機でも、コンベアの横に丸い穴が開けられていて、製品の焼き具合や燃焼状態がいつでも確認できるようになっています。
以前のコラム(エネルギーよもやま話16『水素の利活用について、深堀してみよう!』)でお話しした通り、もし燃料に水素を用いたとすると、水素の炎は無色に近いため目視確認が容易にできません。そのため、食品工場で水素を採用するには注意が必要になるケースがあります。
もちろん、炎が見える見えないという問題だけでなく、燃料が変わっても同じ品質の製品ができるかという課題も大きいので、今の天然ガスと同じ成分を水素から合成するメタネーション(e-methane)の登場が期待されています。
2.蒸気加熱は、燃料としての水素と相性が良い?
食品加工において製品品質を確保することは、とても難しい。味だけでなく、食感や色味など数値で表すことが困難な感覚的なものだからです。
パンを焼く場合、一般的には電気加熱よりガス加熱のほうがしっとりと焼きあがります。排気ガス中の水分が影響するためです。ですが、同じパンでもフランスパンでは、ガス加熱では水分の影響で表面がパリッと焼けないため、電気加熱が採用されます。
そして、電熱ヒータでも加熱バーナでも同じですが、製品との距離やバーナの間隔、炎の微妙な大きさも品質に影響します。そのため、工場では製品種別や生産量ごとに最適な炎の形状(加熱の方法)や処理スピードとの関係を何度もテストして決めています。
したがって、加熱の方式というものは、容易に変更できるものではありません。
つぎに、大鍋で煮込むケースを見てみましょう。
鍋を直接火にかける従来型の加熱方式をあえて選ぶ現場も多くあります。昔ながらの直火でなければ、わずかに焦がした風味が出てこない、とこだわられています。
一方で、鍋を二重釜にして中に蒸気を通し、蒸気の熱で加温する方式もあります。蒸気だと、蒸気の圧力さえ自動で制御してやれば、つねに一定の温度で加熱処理ができるため、熟練者でなくともマニュアル通りの大量生産が可能になります。
二重釜 出典)ミヤワキ
この蒸気は、工場の別の場所に設置されたボイラで集中的につくられます。加熱燃料には、天然ガスやLPGだけでなく、重油や灯油を使用されるケースもあるでしょう。
蒸気というものは、加熱する燃料が製品に直接影響することはありません。したがって、ボイラ用の燃料として水素を採用するには、ハードルは低いともいえるでしょう。もちろん、ボイラの燃料にメタネーションでつくった合成メタンを利用することに、なんら問題はありません。
このように、食品工場ではその会社ならではの食味を最重要課題としながらも、脱炭素に向けてひとつずつ最適解を求めながら進めていかなければなりません。
このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。