こんにちは、エネルギー・文化研究所の岡田直樹です。
今回は女性の起業家を取り上げたいと思う。ただし、分野、ステージを限定しないで医療機器開発まで広げ、少し概観してみる。前回と異なり、分析というより私が感じた事のまとめになる。
本題に入るその前に、2022年度に3回に分けて、[新しいビジネスを通じ、自分を変え、道を切り開く]というタイトルで次のような3回の連載をした。読んでいない方は是非読んで欲しい。
新しいビジネスを通じ、自分を変え、道を切り開く(1/3)|エネルギー・文化研究所/大阪ガスネットワーク株式会社 (note.com)
新しいビジネスを通じ、自分を変え、道を切り開く (2/3) |エネルギー・文化研究所/大阪ガスネットワーク株式会社 (note.com)
新しいビジネスを通じ、自分を変え、道を切り開く (3/3)|エネルギー・文化研究所/大阪ガスネットワーク株式会社 (note.com)
内容は、上場を果たしたサービス系IT企業の社長のプロファイルを行うというもので、長い熟成の期間を経て自己実現の方法を模索するのであるが、衝撃の体験をきっかけにビジネスに踏み出す物語を紐解くもの。
今回はその続編となる。前回、文字数の関係でお話しできなかったが、実は上場を目指す起業において女性の割合が低いことに気が付いた。2021年に実施したサービス系ITベンチャー企業の社長についての定性調査(2017年から2021年の間に上場した企業を中心とする142社の創業者を対象に各種デジタルメディアで掲載されているインタビュー記事や発言記事を収集し、可能であれば私自身が直接面談して、起業までの軌跡を調査)で見ても142社中15社という低さ。また、興味があったのでシリコンバレーに居る知人に聞いてもなんとシリコンバレーでも日本ほどで無いにせよ女性の比率が低いとの事。改めて、不思議に感じられてくる。
そこで、上場を勝ち取った女性起業家や家業を隆盛にした女性後継者に視野を少し広げて、まずは観察してみたい。これから取り上げる経営者は数少ないが象徴的な事例と私は考えている。ビジネスモデルなどの分析ではなく、彼女たちを突き動かす定性的な「信念」「矜持」に近いものを眺めていこう。
1.女性経営者のパイオニア
女性経営者というと思い浮かぶのが、次の方々。やはり女性の目線を大事にされていると感じる方が多い。各種の記事からの引用の羅列になるが、ざっと眺めてもらいたい。
寺田千代乃氏 [アート引越センター株式会社]
引っ越し業界のフロンティアである。
「1985年に始めたエプロンサービスは私自身の体験がきっかけになった。新居に引っ越した際、荷物の運び入れが終わった後の片付けが本当に大変だったのだ。この作業を手伝ってもらえたら助かると思い、商品化を考えた。引っ越し後に食器や衣類など段ボールに入った荷物を開き、収納をするサービスである。この仕事は、細かい部分にまで目が向く、経験豊富な女性従業員が主に担った」
「アートは女性活躍推進委員会を設けている。もともと運送業の中では女性社員の比率が高いが、女性が働きやすい会社はみんなが働きやすい会社だ、という考えに基づき、様々な取り組みをしている」 − 日本経済新聞記事2022/9/28から抜粋
南場智子氏 [株式会社ディー・エヌ・エー] ※1
モバイルゲームの開発・配信、SNSの運営などを行うインターネット関連事業。次の引用は2013/11/25と少し古い記事ではあるが、皆さんはどう感じるだろうか。
「創業以来、結婚や出産が理由で退職した社員は「1人もいない」という同社。南場さんは「社員の家族の話を聞いて愛おしさに涙が出そうになった。出産や育児に限らず、病気や介護など何らかの事情を抱えている人は少なくないと思う。大事な何かを家庭に置きつつ、一生懸命に働いてくれている社員に改めて感謝したい」と語っている。 − 「ITmedia NEWS」より引用
篠原欣子氏 [パーソルホールディングス株式会社] ※1
労働者派遣、人材紹介、求人広告などを手掛ける会社。
「創業当時、未だ日本に女性の活躍できる職場がなかったことから、「じゃあ、自分で会社をつくって、女性の活躍できる職場にしよう」と思ったのが起業のきっかけという。また、「私は海外での勤務経験が長く、ちょうどオーストラリアで秘書として2年間働いていた頃、現地で優秀な派遣スタッフが活躍しているのを見ていました。だから人材派遣業の素晴らしさを知って、日本でも人材派遣業を広めたいと思いました」 − 「日本の社長」より引用
日本の女性起業家は程度の差こそあれど、伝統的な男性文化に挑戦してきた事がよく判る。女性を守るため特別に依怙贔屓するというのではなく、全ての世代や性別を包含する大きな複式学級を目指している。そこには共通して、社員や社会に対する目線に優しさを感じないだろうか。今回調べてみて、私は、女性起業家達のそうした目線、その前提となる女性ならではの苦労を改めて知ることとなった。こうして振り返ると現状は改善に向かってはいるものの、日本のビジネスやサービスは未だに男性中心であることを思い知らされる。
そうしたなかで彼女たちは、前に向かっては自身のビジネスを大きく伸ばし、同時に後進の育成にも大変力を入れ、素晴らしいECOシステムをつくってきている。
続いて、直近で上場した会社に目を移してみよう。ここでも、各種の記事からの引用を引き続きざっと眺めてもらいたい。
米良はるか氏 [READYFOR株式会社] ※1
ビジネスを始めるための資金を収集する方法として欧米で広がったクラウドファンディングを2011年に日本で初めて立ち上げた。
「大学時代に、パラリンピック日本代表スキーチームの備品代を集めるという目的で、ネット上で小口の資金を募る投げ銭サイトを立ち上げ、120万円の資金調達に成功したことがあるのです。その時の手応えから、インターネットを活用すれば、思いがあるのにチャレンジできない人たちのサポートをできるのではないかと強く思うようになりました」
ー 「ひろしまスターターズ」より引用
「事業をしていると、女性か男性かは関係なく、あくまで事業規模が大事であり、私はそれ自体には納得しています。ただ、社会が求めるニーズは資本主義的な合理主義の社会から、心の満足度を考える社会に変容している、特にこの成熟した日本では新しい指標が必要なのではないかと思います。その中で、女性の寛容で、感性的な側面が日本にイノベーションを起こしやすい人材になり得ると感じます。一方で、日本の社会はまだまだ男性が担っており、女性が人間として人生を多様に演出するには難しい場面も多くあるかと思います。今回の取り組みが中心となって、女性が自分らしい、一歩を踏出すチャンスや、ゴールを見つけられ、それ自体を日本が豊かになるための大事な一歩だということを国民全員が認識する取り組みになることを祈っています」 − 「Tokyo Worman’s Incuvation」より引用
仲暁子氏 [Wantedly株式会社] ※1
企業と人材のマッチング、特にベンチャー企業とのマッチングに強みを発揮している。
「いま20代や30代の人は、生まれたときからインフラや環境が整っていて、エンタメもサブスクで安く享受できたりするので、お金のためだけに頑張れるかというと、そうではないと思います。お金プラスアルファの心理報酬というか、『何のためにこの仕事をやっているのか』という意義が、とても重要です」(仲氏)。
「ある研究結果では、年収が一定水準に達すると、それ以上稼いでも個人の幸福度は上がり辛くなるというデータもあるという。逆にいうと、そのレンジまでは最低限必要だが、それ以上はモチベーションアップにはつながりにくいというわけだ」 − CNET Japanより引用
端羽英子氏 [ビザスク株式会社] ※1
「子どもをつくると、優秀な人ほど家庭に入ってしまう。それはもったいないなと思いつつ、でも私自身も専業主婦だった時期があるのでそうしたい気持ちもわかる。30代半ばでいったん仕事から離れると40代でもう一度会社に就職するのはけっこう難しいだろうなということもわかっていました。そういう彼女たちが自身の持っている知識や経験を活かせるサービスがつくれないかなと考えるようになったんです」
「同時に会社が成長するには人や情報が必要不可欠だと痛感していたので、個人の知識を会社の事業に生かすサービスって社会的なニーズがあるんじゃないかと考ました」 − OKAMURA WAVE+より引用
経沢香保子氏 [株式会社キッズライン] ※1
「育児はもっと楽しいもの。育児はみんなのもの。でも、現代はママだけに負担が重くのしかかっています。もっと、気軽にプロに頼める。アメリカのように気軽にベビーシッターがみつかる。日本も、そんな社会になれば、もっと笑顔が増えるはず」 KIDS LINE HPより引用
「その思いの原点はフィリピンに短期に語学留学した時に刺激を受けたこと。語学学校の先生も子供が何人もいながら働いていることが当たり前。その上、フィリピンは女性活躍が世界一の国だったこと (2016年10月26日に世界経済フォーラム(WEF)が発表した、男女平等の指標となるジェンダー・ギャップ指数も、144カ国中堂々の7位!(ちなみに日本は111位)」 − 株式会社キッズライン's Blog より引用
東志保氏 [株式会社Lily MedTech] ※1
「ほっとする受け心地を乳がん検診に」をモットーに開発したのが乳房用リング型超音波画像診断装置COCOLY。9人に1人の女性がかかるといわれる乳がん。しかし、乳がん検診の受診率は決して高いとはいえず、40〜60代女性の過去2年間の検診受診率は47% にとどまっています。この状況を何とかしたい。 この問題意識は、人口の50%を占める女性に大きく支持されていくと思います。(本人談) − 株式会社Lily MedTech HPより引用
※1の方々は、ビジネスを始める前に海外留学や海外経験がある。
私が各種セミナーやイベントで直接お話しを伺ったことと合わせて、まとめてみたい。連綿と続く女性の挑戦には、しがらみや習慣からの解放や自由に発言することに対する熱望を感じる。そして挑戦する誰かの後押しをしてあげたいという、優しい心音もよくわかる。その実現に向けては、他の誰かに負担を掛けるゼロサムではなく、文化を変えるという目標と、手段としての共助の仕組みが細部にまで浸透しているように感じるのは私だけだろうか。
今回取り上げた女性経営者は、前年度のコラムで起業家を分析したように実家が商売をしているまたは教育者、子供の時から自立心をしつけられている、そして海外経験があるというのも類型によくあてはまる。
しかし男性のケースと比較して大きな違いも見えてきた。
特徴として感じられることが非常に高い確率で海外経験がある。ほとんどの女性が海外で刺激を受け、自らを奮い立たせる大きなトリガーを得ている。ビジネスの底流に仕込まれたエネルギーは海外経験でのこんな衝撃では無いかと推測する。
・自分と変わらない同じ女性が海外でとても生き生きと活躍している場面に遭遇し、自分が思う以上に人生には多様な可能性があることを発見した。
・普通だと思っていた自分が海外へ飛び出すとあにはからんや、自分には素晴らしいスキルがあり、更に命を燃やさなければならないと自覚する。
この気づきは使命感を生み、大きな代償を払っても当然の様に迷い無く立ち上がることへと続く。
更に、男性起業家と大きく違うポイントがある。幼少期に引きこもりをしていたとか、とても貧乏な環境で育ち早くに自立せざるを得ず依存心が低くなったなどのコンプレックスや屈折ではなく、女性としてあるがままに自己実現を達成したいという素朴な想いがその原動力になっているのではないかと感じている。女性経営者のパブリックイメージとしてしばしばあげられる「男のように」というニュアンスは感じられない。当然の事なのであるが一人の人間として素直な気持ちそのままの我が道を行くである。
そして一番大きな違いは、「社長になるために何をするか」を探す男性と異なり、女性の場合は最初に「やるべきことがあり結果として社長にならざるを得なかった」というニュアンスの違いである。大きなビジョンを掲げる前に、まず一つずつ目の前のことにしっかり向き合い、その繰り返しによってムーブメントを起こしていく。当然、成功までには紆余曲折を経てたどり着くのであるが、数々のピボットを経ているわけではなくコツコツと紡いでいる。ここが男性の場合と大きく違う点である。
日本はまだまだ遅れているため優秀な女性が日本に息苦しさを感じてしまう。そんな女性が日本を飛び出て世界の空気を吸った時、誰かの役に立つべき自らの使命を自覚する。または暗黙知として「何かをなすべき」と心の奥底で熟成させ爆発の瞬間を待っている、こんな後戻りできない化学変化を起こしているに違いない。女性に限った事ではないが、特に女性はどんどん海外へ行って自らのポテンシャルを再発見し新しい風を日本に吹き込んで欲しいと思う。
その新しい風こそ、今の社会がそれと気付かされ大きく議論されている事ではないだろうか。商品やサービス開発、マネジメントにおいて女性であるゆえの視点、たとえば、男性たちがしばしば置き忘れがちな、ひとりひとりが幸せな気持ちになる事の大切さ、家族的なぬくもりの重要さ、明日の心配より目の前にある課題への着実な取り組みなどが大きなムーブメントになってきている。この変化に対する女性の貢献の大きさが分かる。
男女に関わらず、優秀な人間がこの道に続くことが自然だと思っている。ならばもっと多くの女性が経済活動の主流に入るべきで、この流れを加速させることが重要だと感じる。そのために知らなければならない事、気が付かなければならない大事な点を見落としているという強い思いがあり、あと2回の連載ではそれを追い求めていきたい。
次回は、伝統産業系や物つくり地場企業での女性の活躍に視点を移す。