【省エネルギー】 間違った省エネで、逆効果!? その1
「エネルギーよもやま話」では、エネルギーに関する情報をワンポイントでわかりやすくお伝えしたいと思います。
前回のコラムで、給水タンクの上下で温度差がついているために、蒸気ボイラへの給水温度が上がっていないケースを説明しました。今回は、そうした現象をうまく活用しようとしたにもかかわらず、検討が不十分で逆効果になってしまった工場の省エネ事例をご紹介します。
1.呆れるほどおかしな省エネ対策
それは、ある工業会で発表された省エネ事例でした。とあるエネルギーコンサル会社が、お客さま工場先で実施した対策です。
同じ工業会で、以前に私がボイラ給水タンクの上下温度差について説明したことを受け、それをさらに発展させたとのこと。互いに切磋琢磨して、より高度な省エネが実現できた事例を聞くことができるのは、嬉しい限りです。
比較的小さな蒸気ボイラをお持ちの中小企業の工場に対し、電気式ヒートポンプを新たに設置して給水温度を高める工夫を実施したとのことでした。給水タンクの上下の水温に温度差がつく現象をうまく活用して、タンク下部から冷たい水を取り出してタンクの上部に返すことで、効率的にタンクの水温を上昇させることができた、というのです。
省エネに詳しい方は、この時点でおかしな箇所にいくつも気がつくと思います。
最終的には、ボイラへ給水される水温を上げなければならないのに、タンク上部の水温が上昇するだけになっています。
仮にタンク内が撹拌されてボイラへの給水温があがったとしても、蒸気ボイラの燃料(都市ガス)で加温するのを電気エネルギーによる加温に変えただけなので、省エネになっているわけではありません。しかも、給水温を上げることでボイラ効率は低下するので、逆に増エネになってしまいます。
また、実際の現場写真を見ても、違和感が生じました。小型の蒸気ボイラに対して、給水タンクが大きく感じたからです。おそらく、近年になって操業形態が変化して、蒸気ボイラの能力が昔より小さくなった経緯があるのでしょう。
この工場は、昼間だけ動く8時間操業です。電卓を叩いてみると、小型の蒸気ボイラが1日でつかう水量は、給水タンクの下部3分の1程度しかありませんでした。そして、ヒートポンプの能力では、1日でタンク3分の1程度の水量しか加温できません(=ボイラの使用量とヒートポンプの加温量が等しくなるような能力選定は、ちゃんとできていました)。
つまり、タンクの容量を考慮すると、どうやってもヒートポンプが加温した湯をボイラがつかうことはできないわけです。
朝の操業開始からヒートポンプが一生懸命動いてタンクの上部へせっせと温水を送っても、それを利用することなく夕方の操業を迎える。そして、夜の間に冷却されて、翌朝からまた加温を始める。
そうした無駄作業を毎日繰り返すシステムになっていたようです。
2.原理を知ってから対策する大切さ
上の事例では、ヒートポンプ設備に新たに資金を投入したにもかかわらず、省エネどころか増エネになってしまっていたのです。さすがに発表会の最中に指摘するわけにもいかなかったため、そのままになっています。
いろいろな機会をつうじて省エネ講演に講師として呼んでいただいたとき、よく言われることがあります。
「工場へ帰ってすぐに実施できる省エネネタが欲しい」
その気持ちは、痛いほどよくわかります。でも、年1%の省エネが義務づけられている工場で、費用対効果に優れたすぐできる省エネネタが転がっているとは思えません。
省エネ対策を実行するには、講演や書籍で知った事例に潜んでいる原理をキチンと理解したうえで、自社に当てはめながら修正を加えてから実行する必要があります。さらには、温度などの簡単なデータ計測で裏づけまでおこなうことが望ましい。
猿マネではなく、本質を知って応用する。そのためには、省エネ担当者は講演などの機会を利用して、さらに深く勉強するとともに、その知識を社内で広げていくことで、ボトムアップにつなげていかなければなりません。
「すぐに実施できる省エネネタ」を探すより時間も労力もかかりますが、「急がば回れ」で基礎的な力をつけたほうが、結局は投下した資金と労力を有効に活用することにつながるのですね。
このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。