【省エネルギー】 間違った省エネで、逆効果!? その2
「エネルギーよもやま話」では、エネルギーに関する情報をワンポイントでわかりやすくお伝えしたいと思います。
低炭素や脱炭素といった目的にかかわらず、いつの時代も省エネルギーは必須の対策項目です。しかし、原理を正しく理解して取り組まなければ、せっかくの努力と投資がその効果を発揮しないどころか、逆効果になることだってあります。
今回は、産業用の工場で多く利用されているコンプレッサでよくある事例について、見ていきたいと思います。
1.省エネの対策事例を披露されました…
コンプレッサと呼ばれる装置があります。空気を圧縮して送り出すもので、エアシリンダを動かして製品を搬送したり、塗料を吹きつけて塗装したりする用途に活用されます。
大規模工場では、コンプレッサ室の中に工場全体で必要なコンプレッサが複数台集められていて、集中して圧縮空気がつくられています。電力の消費も大きいことが特徴です。
空気のような気体は、圧縮すると熱を放出します。自由に飛び回っていた気体の分子を圧縮して拘束するわけですから、動きを封じられた分のエネルギーが外に発せられるのですね。
物理現象としてコンプレッサ本体からの放熱があるため、部屋の中はかなりの高温になってしまいます。そのため、どこのコンプレッサ室でも大きな天井ファンが複数台設置されており、部屋の周りの壁には換気口が開けられています。
ある大手機械工場に呼ばれて訪問した際、コンプレッサ室に案内されました。自社で実施された省エネ対策について、省エネ担当の方から説明を受けました。
「コンプレッサ室は人が常駐していないため、節電対策として天井ファンの一部を停めています」
天井を見上げると大きなファンが3台あって、そのうちの2台が停められていました。
この工場では、コンプレッサ室内の温度が上がったとしても、人が常駐しているわけではないため、天井ファンの電力を削減する目的で停めているというのです。一部上場の会社の省エネ担当者が、胸を張って自社事例を紹介してくれました。
2.この省エネ事例の、どこが間違っているのでしょう?
じつは、この部屋の天井ファンは、人のためについているわけではありません。
コンプレッサは空気を圧縮するための装置ですが、空気というものは温度が上がると膨張します。膨張した空気を圧縮しようとすれば、余計なエネルギーが必要になります。これは物理現象ですので、技術でどうにかなるものでもありません。
つまり、コンプレッサ室の換気装置は人が快適に過ごすためではなく、部屋の空気の温度を下げてコンプレッサが消費する電力を低減するためのものだったのです。
そこで、コンプレッサの吸気温度を温度計で計測しながら、天井ファンをすべて動かしてもらいました。すると、熱い空気がファンで排出されるとともに換気口から新鮮な空気がはいるようになり、吸気温度が見るみるうちに下がっていきました。
コンプレッサには機種ごとに性能曲線というものがあって、吸気温度によって必要な電力量がわかっています。一般的には、吸気温度が10℃下がると、ザックリ言って電力量が4%低減します。計測データとグラフの数値をもとに電卓をピコピコ叩くと、天井ファンを停止した電力削減よりもはるかに大きな電力がコンプレッサ本体で余分に消費されていることが明らかになりました。
工場管理者としては初歩的なミスではありましたが、担当者が数年で異動して変わったりすると、こうした勘違いはどこでも起こりうることです。この工場でも、担当者が報告した内容が上司を通過してしまっていたわけですから、担当者を責めるのは酷というものです。
「この対策は、なぜ省エネにつながるのか?」という原理を正しく理解しなければ、努力したにもかかわらずエネルギー消費を増加させてしまうことに陥る可能性だってあるわけです。
明日は我が身にも起こることと捉えて、注意深く観察しながら思慮を巡らせることが大事ですね。
このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。