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2023年08月10日 by 岡田 直樹

〈続〉新しいビジネスを通じ、自分を変え、道を切り開く (3/3-1)


第3話 そして世界をめざそう(前編)


こんにちは、エネルギー・文化研究所の岡田直樹です。
まずは、今までお話ししてきたことを振り返りたい。
第1話では、男性を中心とする社会に挑戦し、自分たちの活躍できる場を作ってきた女性を取り上げた。海外で女性が生き生きと自己実現に向けて取り組んでいる姿に触発され、自分には大きなポテンシャルがあることに気付き、それを活かそうとするうち、ごく自然に起業し社長になっている。結果トップランナーとして女性の社会進出への道を切り開いてきた先駆者たち。時代が変わっても通用する普遍的な要求、優しさ、そして弱さに寛容で共助の仕組みが備わったビジネスの展開に特徴があった。
第2話では、女性の鋭い感性でエッセンス化した価値=感性価値により文化をビジネスで繋ぐ女性を取り上げた。手をこまねいていると断絶してしまう家業に危機意識を持って、自ら後継者となり、さらに磨きをかける。日本人が長い年月をかけて作り上げてきた感性価値を高め、グローバルに通用する域にまで育て、結果、海外から引き合いを獲得してきている。
 しかし、ふと思うことがある。どちらも世界に誇れる高いスキルや価値あるものをもっているにも関わらず、第1話で取り上げた皆さんは、海外での気づきを日本に帰ってくることで花開かせている。第2話の皆さんもまずは国内で頑張ることを第一に、海外志向という点は、意外なほど低いように感じる。にもかかわらず、こちらは今や反対に海外がほっておいてくれない状況になりつつあり、インバウンドが回復し勢いを増してくるなか、引っ込み思案のままでは欲が無さすぎるのではないか。
 最初からひと山当てようとしなくてよいがコツコツ積み上げた結果として、大きな経済価値が後からついてくるようになれないものか、それも海外を巻き込んで。この点が女性たちの起業をめぐる今回のテーマである。

居ながらに国境を越える女性たちへの期待

「かわいい子には旅をさせろ」という諺がある。かわいい子とは我が子、旅は厳しい試練のことだろう。また、「獅子の子落とし」という言葉もある。意味はよく似ているが、自分の子に苦難の道を歩ませ、その器量を試すことのたとえ。どちらも嫌がる甘えん坊の我が子に対して、心を鬼にして、一旦は突き放す。旅に出たがっている我が子を快く送り出す例えではなく、私はむしろ親の側の子離れの儀式のように感じてしまう。
 
そこで思い当たるのが、最近、日本政府が掲げる「旅をさせよ」の方針。裾野を広げていくため、大事な施策として有望な若者に海外での武者修行の道をつけてくれている。このチャンスをどう生かすかは、どんな目的を持って行くかにかかっている。大手企業の単なる「シリコンバレー詣で」ではダメなことは明白だ。
 
「スタートアップ・エコシステムの強化にはダイバーシティが重要であり、「女性活躍・男女共同参画の重点方針 2023(女性版骨太の方針)」の記載も受けて、女性起業家に特化した派遣コースをJ-StarXで実施します」
※経済産業省 2023/6/23 より引用
「J-StarX Women’s Startup Lab コース概要:米シリコンバレー、ボストン、ワシントンD.C.に派遣」
※経済産業省 2023/6/26 HPより引用
 
思い出してほしい。古くは遣隋使から始まり遣唐使、そして明治維新の元勲は、みな海外へ行き、そして学び、帰ってきているが、いずれも国を統治する制度、法律あるいは最新式の機械や技術を「持って帰る」ことを眼目としている。基本的に国内での活用こそが目的とされてきたのだ。
 
これに対し、今、海外を目指す意味は、人口オーナス(人口減少)のステージにある日本に閉じこもらず、世界という大きなステージで多様な価値観、ダイナミックな動きを目の当たりにし、世界に向けてビジネスで挑戦する可能性を感じる点にある。第1話や第2話で見てきたように、自らのポテンシャルを推し量り自らビジネスに乗り出すトリガーを引くこと。長年すたれず受け継いできた価値を究極まで突き詰めた先に、世界からの羨望が待っていると気づくことが大切だ。海外での経験は、何よりも人生の転機を勝ち取ることと考えてほしい。
 
人生の転機を求めて海外へいくのであれば、自分の事を忘れるほどの正義感に裏打ちされた変えるべき現実の壁があってこそ武者修行になる。その壁を超える困難さを思う時、好奇心は沸き立ち、アンテナは鋭敏なり、大きな学びと示唆を得られるはずだ。そして、より多くの人に乗り越えてもらいたいと願っていくはずである。
 
とはいえ、単に「より多くの人に乗り越えてもらいたいとの願い」といってもわかりにくいので、まずは将来に狙うべき商圏を考えてみよう。
カギを握るのは言語であり、それはマーケットサイズと言っても良い。
会話言語 
  1位 英語  13.5億人
  2位 中国語  11.2億人
  3位 ヒンディー語   6.0億人
  (13位 日本語  1.26億人)
※ 翻訳商社HPより引用
 
そして、それを支えるリスクマネーについても見てみよう。狙っているマーケット規模見合いだと考える。アメリカが日本の10倍以上の人口の英語圏をまずは商圏としていると考えるなら、日本のベンチャー投資額の対GDP比は0.03%であり、アメリカ0.4%の約1/10となっている。これは、人口比率に見合っている。
※令和3年3月 内閣官房 成長戦略会議事務局 経済産業省 経済産業政策
ベンチャーキャピタル投資の国際比より

もちろん、人口比率で見合っているとはいっても、金額で考えると日本はアメリカの約1/5のGDPなので、額としては絶望的な格差の1/50のスケールになる。それでもむやみに世界を狙わず、国内市場に向いた起業活動であるなら、小さくても相当するのではないかと思う。小さい、少ないと嘆く必要はなく、国内ビジネスを目指す起業家が大半で、更に女性は身近な人や周辺の人々にまずは役に立つことを目指しているのだから、リスクマネーも小さくて良い。
これから日本女性が取り組むテーマについて、いかにもマッチョな「世界制覇」などと大きな野望を持つよりも、コツコツ積み上げた結果として知らぬ間に世界に受け入れられる。その方が、初期資金が少なくて済むうえに、起業の過程でたくさんの意見と真摯に向き合い、応援を貰うなかで洗練され、半歩先を提案する価値の提供に到達できるのではないか。そしてそのサービス名の日本語が「もったいない」のように、そのまま英語になっていくだろうと想像している。
例えで言うと、トム・クルーズの『ミッション:インポッシブル』の映画のように、各国で大宣伝し世界同時上映するなら、最初に大きなお金が必要になる。一方、予算300万円のインディーズ映画で大ヒットした日本映画『カメラを止めるな!』は、ついにフランスでリメイクされ世界に広がりを見せ、今度はどの国が面白がってリメイクしてくれるか楽しみになる。この違いと考えて欲しい。
リスクマネーのサイズ以外にも大切なことがある。真似のできない磨き上げた価値と発信力があれば、経営の主導権を貪欲なキャピタルではなくこちらサイドが持ったまま、心を込めたビジネスを遂行できるという点だ。あとは着々とスケールを拡大していけばいい。惜しむらくは、日本の女性起業家にガツガツした欲が無いとうところで、それを少しでも加速することも考えて欲しいと思う。SNSでの盛り上がりに加えて、もう少し英語での発信、NHK国際放送や英語のデジタルメディアへのアプローチを意識して実行すべきではないだろうか。
 
次に、人材を「輸出」するのか「輸入」するのかについても、見てみよう。
かつて「英国病」と揶揄されたイギリスも対外競争力を高めるために、世界中から選りすぐった人材に特別なビザを支給して「輸入」。正にテニスのウインブルドン選手権のようなのだ。イギリスは後ろ盾になり、世界ビジネス創出を支援し、莫大な配当を手にするわけだ。フランスでも、2013年に有名な「フレンチテック」施策をスタート。フランス全土に散在する分野ごとの叡智の集積地で、ビジネス創出を支援する制度が大きな成果を上げている。世界では、「高度人材」の中にアントレプレナーも位置づけられており、厳しいビザ発給の面で優遇されているというのがトレンドだ。ビザの視点だけではなく、アイルランド、ルクセンブルク、オランダのように、法人税がどれだけ安いかも大きなポイントになっている。アジアに目を移してみるとシンガポールが興味深い。
「シンガポール政府は日本だけではなくアジアを中心としてグローバルの有望ベンチャーをリストアップし、様々な条件を提示することで誘致を行っているようです。経産省など日本の省庁よりも、シンガポール政府は日本の有望なベンチャー企業に精通しているのではないでしょうか。」
※ZAI ONLINE2013年5月29日公開(2022年3月29日更新)

世界の国は企業を目指す人材に多くの優遇策を提供し、優遇された人材の側はビジネスを立ち上げ雇用と税収を提供している。国と起業家はお互いにWINWINなのである。ユニコーン企業を輩出している多くの国が優遇策を用意し人材を輸入している。優遇策の事例としては、ビザの優遇、税の低さに加えて、高度な教育を施した人材の供給、特許侵害に対する強力な国のサポート、大きな広域マーケツトヘの寄り付きの良さなどがあげられる。
 
かつての遣唐使や明治の元勲たちがそうだったように、国として今やらなければならないことは、起業家たちが海外で学んだことを国内の人づくりに活かすという点だ。そのために第1話のように海外で自らのポテンシャルを確認した彼女たちが再び日本に「輸入」され、戻ってくる場所をつくることが重要となる。
 
その場所とはずばり、優秀な起業家を輸入し、彼らと日本人起業家が切磋琢磨できる環境だろう。化学反応が起きるためには、シリコンバレーのように色々な人と人が出会うことが不可欠だからだ。そこでは、高いポテンシャルを持っているにも関わらず、それを顕在化できていない日本女性が、大きな夢を持ち、志を同じくする多種多様な人々と出会い、語り合うなかでチームができていく。最初は日本国内向けで良い。それを海外の方々が知り、また海外から来た仲間が母国に伝えるなど、国境を超えることは決して難しくないと確信している。その「波紋の連鎖」は日本に居ながらにしてできるはずであり、そのことは第2話で紹介した事例を見ても明らかだ。もしかしたら、文化に続いて、教育、消費財、食、そしてフェムテックのメッカになれるかもしれない。
 
あえて海外にあるECOシステムを使うことなく、海外へ向けた拠点として、彼女たちが活躍できるECOシステムを国内に構築することが、今、求められているのではないか。この項、さらに後編で深掘りしてみたい。

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