エネルギーを歴史から学んでみよう!
「エネルギーよもやま話」では、エネルギーに関する情報をワンポイントでわかりやすくお伝えしたいと思います。
「歴史に学ぶ」。その大切さは、誰もが認めるところです。しかし私たちは、過去のことはすぐに忘れて勝手な解釈をしてしまいがちです。そこで、近年に起こったできごとを題材に、過去(歴史)から学ぶ大切さを感じてみたいと思います。
1.ロシアのウクライナ侵攻で石油価格が高騰した!?
はじめに、次のグラフをよく見てください。原油の価格指標のひとつでもあるアメリカ産WTIの価格推移です。
1月から、とくに2月頃から急激に高騰をはじめ、11月まで右肩上がりになって1バレル80ドルを超えました。近年でこれだけエネルギー価格が急上昇した年といえば、2022年のロシアによるウクライナ侵攻がまっさきに頭に浮かびます。
ヨーロッパでは天然ガスの価格高騰がとくに問題となりましたが、日本でも円安とも相まって石油の輸入価格が高騰し、ガソリンに対して補助金を投入する事態にまで発展しました。その後は、電気代やガス代も上昇しました。
でも、ちょっと待ってください!
じつはわたくし、嘘をついておりました。上のグラフは、本当は2021年の1月から11月までを表しているのです。「2021年」の表示をワザと消しています。
ロシアがウクライナに武力侵攻したのは、翌2022年2月24日です。前年の2021年は、ロシアによる軍事行動が起ころうとは誰も予想しておりませんでした。
そうなんです。ロシアのウクライナ侵攻によって原油価格が高騰し、ガソリンへの補助金投入につながったと思っていましたが、本当は前年から石油価格は異常な高騰を続けていたのです。
2.2021年に、どうして石油価格が高騰したの?
2021年に石油が高騰した理由に、ロシアはまったく関係しておりません。
しかし、テレビなどのニュースでは2021年の状況はあまり大きく報道されず、2022年のウクライナ侵攻と円安だけがガソリン高騰の原因のようにされてきました。
WTI原油が2022年にさらに高騰し、100ドルを超えたことは確かです。しかし、近年のエネルギー価格の高騰をすべてロシアのせいだけにすることには、注意が必要です。
では、なぜ2021年に石油価格が高騰したのでしょうか?
そこには、世界的な脱炭素の流れが要因にあります。脱炭素にむかうと石油が売れなくなると考え、巨額の投資が必要な新規油田の開発にブレーキがかかります。しかし、今まではアメリカのシェールオイル(タイトオイル)が逆の動きをして、盛んに掘削しはじめるのが通例でした。
中東などの従来型巨大油田と違い、アメリカのシェールオイルの掘削は比較的短期間かつ低コストで実現できるため、石油の価格が少しでも上昇すると、すぐに新規の掘削がはじまっていたのです。
ところが、2021年は違いました。さすがのシェールオイル事業者ですら、脱炭素の動きを注意深く見守っていたのです。そのため、世界的な石油価格の上昇につながったのです。
では、2022年のウクライナ侵攻による石油価格高騰の要因を見てみましょう。
私たちは石油高騰と聞くと、なんとなく石油が足りなくなっていると勘違いしがちです。しかし、決して石油の供給が不足したわけではありません。石油の供給量は十分でした。
石油の価格は、需要と供給のバランスだけで決まるものではないのです。そこには、先物取引というギャンブル的な要素が大きく絡んできます。たとえば脱炭素によって石油の新規掘削にブレーキがかかりはじめた気配を感じた瞬間、投機筋は石油価格が上昇すると考えて買いに走ります。すると、石油価格は実体経済から乖離して急激に高騰するのです。
つまり、2021年の高騰も2022年の高騰も、きっかけは脱炭素や戦争と違ってはいますが、価格上昇を狙った投機筋の動きによって爆発的な動きをしたのです。少しでも価格が上がる要因が表面化してくれば、すぐに高騰にむすびついてしまうのですね。
ちなみに、アメリカのシェールオイルの油田開発の状況は、掘削リグの稼働数をインターネットで調べればすぐに出てきますので、おおまかな予想をすることができます。かといって、その情報だけで百戦錬磨のスペキュレータたち(投機筋)の動きを見極めることは困難です。
未来の予測は難しい。しかし、過去に起こったことは必ず繰り返されるため、歴史を学んで現代に活かすことはとても重要です。脱炭素の流れ、シェールオイル事業者の思惑、投機筋の動き。戦争が始まる前から、これらの要因がすでに表面化しており、今後も継続していくものと考えられるでしょう。
次回のコラムからは、「歴史に学ぶエネルギー」をシリーズで考えていきたいと思います。お楽しみに。