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2023年11月02日 by 前田 章雄

【歴史に学ぶエネルギー】1.ペリーと石油の関係とは?

 


「歴史に学ぶエネルギー」をシリーズで考えてみたいと思います。
「歴史を学ぶ」のであれば、誰がいつどこでなにをしたのかという事実を明らかにすることが必須です。一方で「歴史に学ぶ」場合は、ある事象が起こった理由や前後の因果関係を想像し、そこから現在や未来の行動に対する示唆を得ることが重要になってきます。
いつの時代でも、「歴史は繰り返す」と言われています。その「歴史に学ぶ」ことによって、同じ轍を踏むことなく新たな歴史を刻んでいく。それが現代の私たちに課せられた使命でもあり、先人たちの経験をさらに価値あるものに変えることにつながります。
初回は、幕末の日本にやってきたペリーの謎です。私たちは、そこからなにを学ぶべきでしょうか?
 
1)ペリーが日本にやってきた!
1853年、時は幕末。日本中が恐怖のどん底へ陥れられました。ペリー提督率いる黒船が幕府に対し、開国を要求したのです。初めて見る巨大な黒い艦隊は、江戸の街を震撼させました。
黒船騒動では4隻の鋼鉄製の蒸気船が太平洋を渡ってきたイメージがあるかもしれませんが、石炭を焚いた蒸気船はそのうちの2隻です。しかも蒸気機関による航法は港湾内に限定されており、広い大洋は帆で航海していました。残りの2隻は、純粋な帆船です。
艦体も鋼鉄ではなく木製で、腐食防止の黒いタールが塗られていました。そして、広大な太平洋を横断したのではなく、大西洋から東廻りの海岸沿いにアフリカ喜望峰を迂回してインドを廻り、沖縄で停留したのちに父島に寄ってから、江戸に向かっています。
 
アメリカは当時、石炭を利用した産業革命のまっただなかにありました。機械化された工場やオフィスは夜遅くまで稼働しており、ランプの灯火や潤滑油として鯨油を必要としていました。はじめはアメリカ近海で捕鯨をしていましたが、やがて東太平洋で鯨が獲れなくなってきたため、遠く離れた日本近海にまで足を延ばすようになります。
当時のアメリカの捕鯨船は船上で鯨油の抽出まで行っていたため、大量の薪や水を必要としていました。物資補給の目的で、アメリカは日本に協力を求めたのです。
また、工業製品の輸出先として4億人の人口をかかえる中国(清)という巨大マーケット開拓のために、日本に寄港する必要がありました。日本で帰りの燃料や食料物資を補給することができれば、その分多くの商品を船に積み込むことができます。
中国市場というキーワードは、その後の歴史でも何度も登場します。近年の中国には「世界の工場」のイメージも強くあるかもしれませんが、この地域には世界最大の市場としての視線が欧米から注がれ続けています。いつの時代も中国を抜きにして世界を語ることはできません。
 
アメリカは日本に対して友好的に交渉していましたが、幕府の煮え切らない返答に困り、ペリーを送って開国を迫ります。そうして日米和親条約を締結し、続けてやってきたハリスによって日米修好通商条約という日本にとって不利な条件が含まれている条約を結ばされた、と学校で習った記憶がありますね。
しかし、そうした条約を結んだわりに、アメリカという名前は幕末の歴史から見なくなります。オランダやスペイン、ロシアのほかには、薩摩藩に協力したイギリスや幕府のあと押しをしたフランスしか記憶にありません。
 
2)ペリーが日本にこなくなった!
アメリカは自国に有利な条約を結んだのに、日本の幕末史から消えてしまった。それは、いったいなぜなのでしょうか?
そこには、アメリカ国内で南北戦争が始まったため、日本や中国どころでなくなったという事情もあります。
当時、アメリカ国内の南部と北部では経済・社会・政治的な相違が拡大していました。南部では農業中心のプランテーション経済が盛んで、特に綿花をヨーロッパに輸出していました。プランテーション経済は黒人の労働力によって支えられていました。
また、南部の綿花栽培の急速な発展はイギリスの綿工業の発展に伴って増大した綿花需要に負うもので、イギリスを中心とした自由貿易圏に属することが南部の利益につながっていました。
一方、北部では急速な工業化が進展しており、新たな流動的労働力を必要とし、奴隷制度とは相容れませんでした。その結果、奴隷制と貿易に対する認識を異にしていた北部と南部の間で大きな対立が生じていました。
このように南北戦争が起こった要因は複雑ですが、1863年のリンカーンによる奴隷解放宣言を旗印とした戦争が勃発し、アメリカを二分する戦いにまで発展したのです。
しかし、ペリーやハリスのあとアメリカが日本に来なくなった理由は、ほかにもあります。アメリカ国内で石油が発見されたのです。照明の燃料が、鯨油から石油に変わったのですね。
ペリー来航のわずか6年後の1859年、米ペンシルベニア州で石油が発見されました。煤の出る鯨油と違って、灯油はにおいも少なく明るいということもあって、瞬く間に人気商品となりました。そのため、アメリカは遠く日本近海まで捕鯨に来る必要がなくなったのです。
 
幕末の日本人は石炭による蒸気機関に驚いていましたが、植民地化された周辺アジア諸国の状況を理解するや、すぐさま開国して富国強兵に舵を切ります。そうして、石炭をはじめとするエネルギーを大量消費する産業政策に一歩を踏み出すことになるのです。
当時、もし江戸幕府が世界情勢、とくに諸外国のエネルギー情勢を正確に把握していれば、日本は不平等条約を結ばされることもなかったかもしれませんし、その後の条約改正に多大な労力をかける必要もなかったはずです。
情報の重要性は、昔も今も変わっていませんね。
 
 
このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。

−参考文献−(次回以降も共通)
「石油に浮かぶ国」牟田口義郎著;中央公論社(1965)
「砂漠の文化」松田壽男;中央公論社(1966)
「大阪産業史」武部善人著;有斐閣(1982)
「中東とアラブ人澤田隆治著;講談社(1982)
「中東情勢を見る眼」瀬木耿太郎著;岩波書店(1984)
「石油戦争」落合信彦著;集英社(1984)
「石油を支配する者」瀬木耿太郎著;岩波書店(1988)
「石油の世紀」ダニエル・ヤーギン著、日高義樹/持田直武訳;日本放送出版協会(1991)
「増補国際石油産業」浜渦哲雄著;日本経済評論社(1994)
「サウジアラビア」小山茂樹著;中央公論社(1994)
「世界紛争地図」松井茂著;新潮社(1998)
『「強国」論』デビッド・S・ランデス著、竹中平蔵訳;三笠書房(2000)
「現代イラン」桜井啓子著;岩波書店(2001)
「イラクとアメリカ」酒井啓子著;岩波書店(2002)
「世界を動かす石油戦略」石井彰/藤和彦著:;筑摩書房(2003)
「アフガニスタン」渡辺光一著;岩波書店(2003)
「イラク」酒井啓子著;岩波書店(2004)
「ヨーロッパとイスラーム」内藤正典著;岩波書店(2004)
「石油の歴史」三浦礼恒著;白水社(2006)
「ピーク・オイル・パニック」ジェレミー・レゲット著、益岡賢/植田那美/楠田泰子/リック;作品社(2006)
「近代大阪経済史」阿部武司著;大阪大学出版会(2006)
「王様と大統領」レイチェル・ブロンソン著、佐藤陸雄訳;朝日新聞社(2007)
「ニッポンの素材力」泉谷渉著;東洋経済新報社(2008)
「金を通して世界を読む」豊島逸夫著;日本経済新聞出版社(2008)
「石油の支配者」浜田和幸著;文藝春秋(2008)
「オイルマネーの力」石田和靖著;角川グループパブリッシング(2008)
「中東激変」脇祐三著;日本経済新聞出版社(2008)
「石油がわかれば世界が読める」瀬川幸一著;朝日新聞出版(2008)
「オイル&マネー」藤澤治/吉田健一著;エネルギーフォーラム(2008)
「プーチンのエネルギー戦略」木村汎著;北星堂書店(2008)
「世界金融戦争」広瀬隆著;日本放送出版協会(2008)
「グリーン革命」トーマス・フリードマン著、伏見威蕃訳;日本経済新聞出版社(2009)
「ブラッド・オイル」フランソワ・ラファルグ著、藤野邦夫訳;講談社(2009)
「田中角栄 封じられた資源戦略」山崎淳一郎著;草思社(2009)
「メタル・ストラテジー」谷口正次著;東洋経済新報社(2009)
『「経済戦勝国」日本の底力』長谷川慶太郎著;出版文化社(2009)
「人類を幸せにする国・日本」井沢元彦著;祥伝社(2010)
「石油国家ロシア」マーシャル・I・ゴールドマン著、鈴木博信訳;「日本経済新聞出版社(2010)
「世界がわかる石油戦略」岩間敏著;筑摩書房(2010)
「中東の考え方」酒井啓子著;講談社(2010)
「エルサレムの歴史」笈川博一著;中央公論新社(2010)
「探求−エネルギーの世紀」ダニエル・ヤーギン著、伏見威蕃訳;日本経済新聞出版社(2010)
「ロックフェラーの完全支配」ウィリアム・イングドーム著、為清勝彦訳;徳間書店(2010)
「闇の権力者たちのエネルギー資源戦争」ベンジャミン・フルフォード著、プライム湧光編;青春出版社(2011)
「近代大阪の工業化と都市形成」小田康徳著;明石書店(2011)
『「アラブの春」の正体』重信メイ著;角川書店(2012)
「日本式モノづくりの敗戦」野口悠紀雄著;東洋経済新報社(2013)
「日露エネルギー同盟」藤和彦著;エネルギーフォーラム(2013)
「出光佐三」水木楊著;PHP研究所(2013)
「空を制するオバマの国家戦略」小河正義/国谷省吾著;実業之日本社(2013)
「2020年石油超大国になるアメリカ」日高義樹著;ダイヤモンド社(2013)
「石油と日本」中嶋猪久生著;新潮社(2015)
「イスラームの歴史」K・アームストロング著;中央公論新社(2017)
「近代日本一五〇年」山本義隆著;岩波書店(2018)
「超エネルギー地政学」岩瀬昇著;エネルギーフォーラム(2018)
「アジア・太平洋戦争と石油」岩間敏著;吉川弘文館(2018)
「未来の大国」浜田和幸著;祥伝社(2019)
「経済衰退の本質」金子勝著;岩波書店(2019)
「臨界点を超える世界経済」吉田繁治著;ビジネス社(2019)
「石油・ガス大国ロシア」木村眞澄著;群像者(2019)
「戦後経済史」野口悠紀雄著;日本経済新聞出版社(2019)
「国家・企業・通貨」岩村充著;新潮社(2020)
「資源争奪の世界史」平沼光著;日経BP(2021)
「脱炭素経営入門」松尾雄介著;日経BP(2021)
「エネルギー危機の深層」原田大輔著;筑摩書房(2023)
「世界資源エネルギー入門」平田竹男著;東洋経済新聞社(2023)
「地政学から読み解く」小山堅著;あさ出版(2023)

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