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2023年10月31日 by 山納 洋

【シリーズ】街角をゆく Vol.5 王子公園(神戸市灘区)


こんにちは。エネルギー・文化研究所の山納洋(やまのう・ひろし)です。


僕は2014年から「Walkin'About」という、参加者の方々に自由にまちを歩いていただき、その後に見聞を共有するまちあるき企画を続けています。

その目的は「まちのリサーチ」です。そこがどういう街なのか、どんな歴史があり、今はどんな状態で、これからどうなりそうかを、まちを歩きながら、まちの人に話を聞きながら探っています。

この連載ではWalkin'Aboutを通じて見えてきた、関西のさまざまな地域のストーリーを紹介しつつ、地域の魅力を活かしたまちのデザインについて考えていきます。



今回ご紹介するのは、神戸市灘区にある王子公園。阪急神戸線王子公園駅の周辺です。


 


王子公園は、もともとは関西学院大学のキャンパスでした。関学が西宮市上ヶ原に移転した後に動物園とスタジアムを備えた公園になりましたが、2031年、ここに関学のキャンパスが戻って来ることになりました。このことを、歴史の流れを追ってご紹介してみたいと思います。


王子公園の一帯はかつて「原田の森」と呼ばれ、その前には田畑が広がっていました。明治22年(1889) にこの地に関西学院が創立され、明治35年(1902)には神戸高等商業学校(現:神戸大学)が設立されています。一方で周辺の市街地化が進み、また南側の海岸地区では神戸製鋼・川崎造船の製鉄所が操業を開始しました。関西学院はその後、昭和4年(1929)に西宮市上ケ原にキャンパスを移転しています。





国土地理院地図 1/25000「神戸首都」大正12年測図 昭和2.1.30発行


 

その後昭和25年(1950)に、関学キャンパス跡地は王子公園として供用され、同時に戦災復興と産業の発展のために日本貿易産業博覧会(神戸博)が開催されました。翌昭和26年(1951)には王子動物園が開園し、昭和31年(1956)の国民体育大会の開催に合わせてスポーツ施設が次々と整備されました。昭和45年(1970)には兵庫県政100周年記念事業として、公園南側に兵庫県立近代美術館が整備されています。


 

阪急王子公園駅の東側には、水道筋商店街があります。この商店街ができたのは大正13〜14年(1924〜25)頃です。この商店街の下には神戸水道という、神戸市北区にある千苅ダムから西宮市にある上ヶ原貯水池を経て神戸市内に水を送る水道管が埋められています。神戸水道は大正3年(1914)に着工し、大正10年(1921)に第1期工事を終えています。水道管が埋められた上に道路ができ、周辺に徐々に店舗が軒を連ね、商店街が形成されていきました。


水道筋の山手には、商店街形成の少し前、大正7年(1918)頃に「畑原廉売所(のちの畑原市場)」が開設されています。大正7年といえば米騒動が起こった年です。第一次大戦期の物価高騰のさなかで、適正な価格で食料を流通させ、労働者の生活を安定させるために、食料品を安価で買える公設市場の設置が全国的に進みましたが、同時期に畑原市場も生まれています。大正14年(1925)には畑原市場の西側に灘中央市場が誕生しています。


これらの商店街や市場の顧客は、山手の住宅地の住民と海岸の工業地帯(主に神戸製鋼)で働く労働者とその家族でした。界隈は当時「神戸の東新開地」を呼ばれるほど発展し、大いに繁栄していたそうです。



 

水道筋商店街(エルナード水道筋)


水道筋商店街では、衣料品・家具・文化品(レコード・ラジオ・カメラなど)などの買回品店や専門店がかつては中心でしたが、その数は徐々に減ってきています。それに代わり、対個人サービス店や飲食店・食料品店が増え、また集客力のある食料品中心のスーパー,ドラッグストアなどのチェーン店も目立つようになりました。地域の人たちが日常的に最寄品を購入するようになったことで、いまも集客力を維持しています。多くの人が行き交い、賑やかな商店街という印象です。


 

畑原市場跡のマンション建設地


 

畑原市場は、建物の老朽化や店主の高齢化、後継者不足などの理由から、2020年に約100年の歴史に幕を閉じました。跡地は現在、マンションとして開発されています。



灘中央市場


灘中央市場の方は健在です。空き店舗に若い人たちが飲食店や事務所を設けたり、イベントが開催されたり、空き店舗が撤去された空き地を活用して「いちばたけ」という、地域住民が自由に立ち入れる菜園が運営されたりしています。灘中央市場は2025年に百周年を迎えるので、それに向けて記念誌の発行などが企画されているそうです。


 

横尾忠則現代美術館


兵庫県立近代美術館は阪神淡路大震災で被災し、その継承施設として2002年にHAT神戸(神戸製鋼と川崎製鉄があった埋立地)に兵庫県立美術館が開館しました。もとの近代美術館の建物は「兵庫県立美術館王子分館(原田の森ギャラリー)」として残されていますが、その西館は2012年に「横尾忠則現代美術館」として開館。兵庫県西脇市生まれの美術家、グラフィックデザイナー・横尾忠則本人から寄贈・寄託された作品を収蔵しています。


 

「王子公園 再整備基本方針」で定められたゾーニング(令和412月策定) 神戸市資料より


2021年、神戸市は公園開設70年を機に、大規模修繕や施設の更新に取り組むため、王子公園再整備基本方針を公表しました。そして2023年6月、その方針に基づき公募した大学設置・運営事業者の優先交渉権者に選ばれたのが学校法人関西学院です。今後、26年度末に土地引渡し、31年春には関西学院大学キャンパス開設となる見込みです。


現在王子スタジアムがある駅近の場所には関西学院大学の校舎が建てられる予定で、王子動物園はリニューアル、王子スタジアムは敷地内の北側に新築移転される計画になっています。現在の王子動物園は、大人の入場料が600円で、中学生以下と兵庫県在住の65歳以上の方と障がい者の方は無料です。地元では関学が戻ってくることを歓迎する一方で、長く市民の方に親しまれてきた施設の今後を心配する声もあるようですね。

 

 王子動物園


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