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2023年12月26日 by 山納 洋

【シリーズ】街角をゆく Vol.7 扇町(大阪市北区)


こんにちは。エネルギー・文化研究所の山納洋(やまのう・ひろし)です。

僕は2014年から「Walkin'About」という、参加者の方々に自由にまちを歩いていただき、その後に見聞を共有するまちあるき企画を続けています。

その目的は「まちのリサーチ」です。そこがどういう街なのか、どんな歴史があり、今はどんな状態で、これからどうなりそうかを、まちを歩きながら、まちの人に話を聞きながら探っています。

この連載ではWalkin'Aboutを通じて見えてきた、関西のさまざまな地域のストーリーを紹介しつつ、地域の魅力を活かしたまちのデザインについて考えていきます。

 

今回ご紹介するのは、大阪市北区扇町。JR大阪環状線天満駅、大阪メトロ堺筋線扇町駅の周辺です。


この界隈で古くから知られていたのは大阪天満宮です。孝徳天皇が難波宮を造営した際、守護神として大将軍社を創建しましたが、903年に菅原道真が大宰府に流され、亡くなった後に天満宮として祀られるようになりました。江戸時代には界隈は門前町として栄え、明治時代には商店街となりました。天神橋筋商店街は現在も「日本一長い商店街」として知られています。


現在の扇町公園の場所には、備前藩の蔵屋敷がありました。浪花百景の「堀川備前陣家」には、桜並木と天満堀川の清流の奥に蔵屋敷が描かれています。



浪花百景「堀川備前陣家」(大阪府立中之島図書館所蔵)



天満堀川は慶長3年(1598)に開削されました。当初は備前藩の蔵屋敷から南側しかありませんでしたが、天保9年(1838)に北東に向けて開削され、大川とつながっています。この工事は、前年に発生した大塩平八郎の乱で荒廃した町の復興と焼け出された人たちの救済事業として行われています。天満堀川はその後昭和47年(1972)に、阪神高速道路守口線の開通によって埋め立てられています。



備前藩蔵屋敷は明治になって廃され、跡地には明治15年(1882)には堀川監獄(刑務所)が設けられました。それまでは周辺には田畑しかなかったのですが、明治中期になると周辺は急速に市街化されました。そのため刑務所は堺市へ移転され、大正12年(1923)に跡地に扇町公園が整備されました。昭和25年(1950)には公園内に大阪プールが設けられ、開場記念として水泳の日米豪国際選手権が開催されました。その後も国際的な水泳大会をはじめ、プロレスやコンサートなどが開催されました。力道山も、マイルス・デイビスも大阪プールに登場しています。大阪プールはその後港区の八幡屋公園に移転しましたが、扇町公園の南西角にはプールの飛び込み台がモニュメントとして置かれています。

 

 

 

扇町公園にある飛び込み台のモニュメント


扇町・南森町界隈では70年代以降、クリエイティブ系の事務所の集積が進みました。2000年頃には、界隈にはソフトウェア・情報処理・インターネット関連等のソフト系IT産業や、映像・広告・デザイン関連などの事務所が2000以上も存在していました。このことは、大阪市北区に新聞社と放送局が集まっていることにその理由があります。


大阪は有力全国紙の発祥の地です。そして多くは大阪市北区に存在しています。朝日新聞は明治18年(1885)に中之島に、毎日新聞は大正11年(1922)に堂島に移り、日本工業新聞(産経新聞社)は昭和8年(1933)に堂島浜で創刊され、27年(1952)に梅田に移っています。新聞社の集積は、必然的に印刷や版下製作にまつわる仕事を界隈にもたらしました。デザイン系の事務所が増えてきた背景には、近くに印刷会社や写植屋が多く、ここに事務所を構えると仕事の受け渡しがスムーズに進んだということがあるようです。


昭和26年(1951)には民間によるラジオ放送が始まり、昭和31年(1956)にはテレビ局が開局しました。毎日放送と朝日放送は堂島で、関西テレビは西天満で放送事業を開始しています。電波メディアの登場とともに、界隈には広告にまつわる仕事や、音声・映像の撮影・録音・編集を専門的に行う事務所が集まるようになりました。特に広告系の仕事では、この界隈に事務所を構えるとクライアントや広告代理店からの仕事を受けやすかったのでしょう。

 

 

西日本書店



天神橋筋2丁目にある「西日本書店」。昭和50年(1975)創業です。看板には、新刊書籍・雑誌・洋書と並んで「デザイン書」と書かれています。実際にお店の中には、デザイン・インテリア・建築の棚が広く取られ、実務をしている方に役立ちそうな本が並んでいます。


昭和60年(1985)、扇町公園西側に大阪ガス北支社ビルを改装して「扇町ミュージアムスクエア」が開業。小劇場、ミニシアター、雑貨店、カフェレストラン、ギャラリーを備えたこの施設は「関西の若者文化の発信基地」として親しまれました。そして扇町はアーティストやクリエイターが集う街という新たな顔を持つようになりました(僕はこの施設のマネジャーをしていました)。平成9年(1997)には、扇町公園東に隣接した大阪市立工業研究所跡地に「キッズプラザ大阪」と関西テレビ本社を備えた施設がオープンしています。

 

 

扇町ミュージアムスクエア

 


扇町ミュージアムスクエアは2003年に閉館しましたが、それから20年経った202310月に、扇町公園南側に医誠会国際総合病院が開業しました。病院の13階には「扇町ミュージアムキューブ」と名付けられた劇場施設が設置され、演劇の公演や映画の上映が行われています。

 


扇町ミュージアムキューブ



界隈のクリエイティブ系の事務所の集積は、一時期ほどではなくなってきていると聞きます。個人がパソコンで仕事を完結できるようになってきたこと、不況期に多くのクリエイターが事務所を自宅に集約したこと、特にコロナ禍以降にはリモートでの仕事や打合せが一般的になったことなどが理由のようです。

 




談話室「マチソワ」


 


「扇町ミュージアムキューブ」の1階には、「マチソワ」という談話室があります。スタッフに話しかけられてもOKという方なら誰でも会員になれる、という不思議な会員制で、演劇や映画を観に来た方や、界隈で働いているクリエイターなどが会話を交わす場所になっています。(僕はマチソワの運営という形で新劇場に関わっています)




「アーティストやクリエイターが集う街」という、この街が持つポテンシャルを、ここを起点にもう一度豊かなものにしていければと思っています。














 












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