「歴史に学ぶエネルギー」をシリーズで考えています。戦争で焦土と化した日本へ、マッカーサーがやってきました。その後の日本は、急速な経済成長を遂げることになります。
1)高度経済成長の幕開け
戦争が終わると、マッカーサーが日本にやってきました。
パイプ煙草をくわえ、飛行機のタラップから悠然と見下ろしている姿が有名です。じつはこの姿、自分の第一印象を日本人の脳裏に刻み込ませるために、マッカーサー本人がこだわりにこだわったものだったそうです。写真撮影を何度も繰りかえし、ようやく納得いくものになった姿を私たちが見ています。
独特のファッションセンスをもつ彼は、若いころから軍服に毛皮のコートを羽織った姿で民衆の前に現れるなど、「戦う気取り屋」と呼ばれてきました。威厳を感じさせるために、自分の顔を下から撮ったローアングルの映像が多いことも有名です。
焦土と化した日本へやってきた占領軍は、日本の社会構造を根底から変える政策をとります。アメリカ空軍を恐れさせた性能を有するゼロ戦に象徴される、卓越した日本の工業技術力を骨抜きにするために、日本国内における重化学工業はすべて禁止されました。アメリカ崇拝だけでなく、日本人としての戦争への反省や自虐感といった思想も人々に植えつけます。
ここに朝鮮戦争が勃発します。朝鮮半島内の内戦ですが、ソ連とアメリカの代理戦争でもありました。朝鮮半島に軍隊を派遣したアメリカは、日本からの物資提供の必要にせまられます。そこで、やむなく自動車の生産もふくめた産業振興を解禁することになりました。戦争特需のおかげで、日本経済は空前の高度成長時代を迎えることになります。
日本中が好景気に刺激され、「つかい捨て」が奨励されました。
「つかったらすぐに捨てて、新しい製品をドンドン買おう!」
現代では考えられない標語ですが、買ったモノをすぐに破棄することで大量生産の拡大につなげようという発想です。ドンドン消費して多くの商品を買うことが日本の経済発展のためになると、日本中が信じていました。
こうした社会システムの弊害は、やがて日本各地で公害問題をひき起こします。のちには、さまざまな規制もかけられるようになりましたが、大量生産によってスケールメリットを追い求める産業構造にブレーキがかけられることはありませんでした。
2)経済成長が成功した要因とは?
高度経済成長の時代とは、現在となにが違っていたのでしょうか?
もっとも大きな相違は、為替と原油価格でした。現在と比較すれば、当時は超円安であり、しかも超原油安でもありました。
為替は、製品の販売価格と資源購入額の差となる付加価値に影響します。円安になれば、外国製品との価格競争にとって有利に働きます。為替は輸入と輸出の双方に影響しますが、加工貿易においてはそれらの差となる付加価値への為替影響が外国製品との差となるわけです。
一方で安い資源価格は、付加価値そのものの効果拡大に寄与します。日本のような資源輸入国では、工業製品の輸出は資源をもつ国より不利ですが、原油安であれば資源国との差は縮まり、付加価値の影響力が増します。
円安も原油安のいずれも付加価値を増幅させる役目を果たすことになり、加工貿易をますます拡大させることにつながりました。当時の為替は固定相場であり、1ドル360円でした。現在の2倍以上の相場差で輸出に有利に働いたのです。
やがて低コストで採掘できる石油が中東で発見されると、その権益のほとんどをセブンシスターズが確保し、富を独占します。その頃のアメリカは国内の埋蔵原油が枯渇しはじめたため、中東産の輸入へシフトしていました。原油価格も1バレル1ドル台に据えおかれていました。アメリカの原油先物取引市場において、史上最高値147ドルを記録した2008年からは想像もつかない低価格です。本来、中東産油国が受けるべき利益が原油価格に反映されないまま、欧米諸国だけがその恩恵を得て経済を成長させていくのです。
こうした恵まれた時代背景を武器に、日本は大量生産に支えられた社会システムを構築します。
ビッグスリーが秘密裏に結んだ「アクナキャリー協定」のことを前述しましたが、メキシコ湾岸を輸送の基準にしたガルフ・プラス方式は、やがてアメリカの経済協力局ECAによって問題視されはじめます。マーシャル・プランでヨーロッパへ経済援助するお金は、アメリカ国民の税金でまかなわれています。税金をこれ以上無駄使いさせるわけにはいきません。
そこで、この世界的な裏カルテルにメスがはいったのです。その結果、価格システムが「ガルフ・プラス方式」から「中東プラス方式」へ変わりました。
このことで、日本の立場は著しく改善されることになります。石油価格全体が安かったとはいえ、戦前は世界でもっとも高い石油価格であった日本ですが、かなり安い地域に属するようになり、これこそが日本の高度経済成長を支える基盤となったのです。
このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。