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2024年08月02日 by 前田 章雄

【歴史に学ぶエネルギー】38. 都市ガス供給は地域密着型事業


「歴史に学ぶエネルギー」をシリーズで考えています。産業革命をけん引した石炭から石油に代わり、石油が戦争の行方を左右し、やがて政治的な戦略商品としての性格を帯びてきました。ここでいったん立ち止まって、もうひとつの主力エネルギーともいえる天然ガスに目を向けてみたいと思います。


 

1) 捨てられてきた天然ガス

石炭や石油にならぶ主力エネルギーのひとつ、天然ガス。環境にやさしいクリーンな天然ガスは、近年では石油からの代替もかなりすすんでいます。

天然ガスとは、空気より軽いメタンが主成分の気体燃料であり、油田から石油と随伴して産出されたり、ガス田から天然ガスだけが産出されたりします。天然ガスは石油と違って、比較的世界中に遍在しています。

 

しかし従来は、天然ガスのようなガス体がエネルギーの主力になるとは考えられてきませんでした。液体である石油のように樽に入れて運ぶことができるわけでもなし、パイプラインを敷設するにしても、当時の技術では圧力を高くできなかったため大口径のパイプが必要となり、長距離の輸送も難しく、そうそう採算が取れるとも思えない。

そうした理由から、油田からたとえ天然ガスが産出したとしても、大気へ無駄に放出させるか油井に戻すか、あるいはごく近傍へのパイプライン供給をするにとどまっていました。

そのため天然ガスの普及には、高圧で輸送する大口径パイプラインを敷設する技術であったり、LNG(液化天然ガス)といってマイナス162℃に冷却して液化する技術であったり、そうした新技術が実用化されるまで待たなければなりませんでした。

 

しかしガス体エネルギーには、固体や液体燃料にはない有用性があります。着火性に優れており、燃焼性もよい。排気もクリーンで加熱効率も高く、省エネルギーの技術ともすこぶる相性がよい。

そのため、天然ガスではありませんが、明治時代にはいるとガス体エネルギーの供給事業が都市部を中心にはじまります。原料として石炭(のちに原料が石油に転換)を利用し、乾留すなわち蒸し焼きをすることで、気体の揮発成分を取り出します。これを気体燃料として、近傍の家庭や工場に都市ガス導管で供給するのです。

固体や液体燃料のように貯蔵や取扱いに対して特別な技能や作業を必要としなかったため、不特定多数の人々、すなわち一般家庭への供給に適した気体燃料は、都市部の密集地帯で瞬く間に普及しました。

 

もちろん、都市ガスには気体燃料であるがゆえに漏えいの危険性も生じてきます。そのため、都市ガス供給は地域密着型事業の形態をとっています。道路に埋設された都市ガス導管の維持管理のみならず、敷地内のガス配管の漏えい検査にはじまり、ガス機器の点検や利用案内、換気の指導といったきめ細かな活動をアフターサービスとして提供しています。そうした業務を通じて、厨房から給湯・暖房にいたる生活シーンで都市ガス利用を提案するという、消費者との長くて深い関係性を重視しています。

 

2)都市ガス供給は地域密着型事業

明治時代に各地で立ち上がった日本のガス事業は、照明用途としてはじまりました。

エジソンによる電球も発明されましたが、まだまだ暗くてフィラメントがすぐに切れてしまいます。京都石清水八幡宮近くの男山の竹が鉄分を多く含んでおり、エジソンは電球のフィラメントとして採用しましたが、普及するにはいたっておりませんでした。ガス燈の明るさと利便性には、電燈はまだ及びもしなかったのです。

夜間の明かりが必要な施設、すなわち外国人居留地や繁華街、あるいは夜間も操業する工場に対して、ガス燈が普及していきます。明治時代の初めごろ、暗闇を煌々と照らすガス燈は近代化の象徴として人々に受け入れられました。ガス燈の需要地の近くで、かつ石炭の輸送に適した運河や鉄道がある場所にガス製造工場がつくられ、周辺地域へ都市ガスを供給しはじめます。こうした小規模な都市ガス会社が、雨後の筍のようにできていきました。

しかし、フィラメントに金属のタングステンを用いた電球が発明されるや、状況は一変します。電球の利便性が飛躍的に向上し、電燈が瞬く間に普及したのです。地域ごとに電気を供給する小規模な電力会社も多くつくられ、電線網の普及拡大とともに、ガス燈から電燈への転換をすすめていきます。早くもガス会社存亡の危機が訪れました。

 

そこで都市ガス会社は、消費者のニーズを的確にとらえながら、自らガス消費機器の開発に乗り出します。まず、厨房分野へ進出しました。当時の台所には、薪を燃やして調理する「かまど」が土間にありました。薪をあつかう家事から主婦を解放しようと、コンロからはじまり炊飯釜の開発に着手します。

さらには、驚くべき技術開発もおこなっています。アンモニア吸収冷凍機の技術を応用したガス冷蔵庫やスターリングエンジンを活用したガス扇風機です。現代においても最先端と称せられておかしくないほどの技術を、よくぞ当時に挑戦したものだと感心しますが、そこまで追い詰められていたと考えると、人がもつ底力に驚嘆せざるを得ません。

エネルギーの供給会社が自らエネルギー消費機器を開発する姿勢は、その後も引き継がれていきます。戦後まもなくすると産業用の生産工場へも進出し、重油や灯油から都市ガスへの転換をすすめていきます。既存で使用中の工業炉の形状に合わせた特注のガスバーナを開発し、安価に燃料転換を実現させるなどの工夫を駆使し、少しずつ都市ガスのシェアを高めていきます。

このように、消費機器の開発まで手掛けるガス会社は、日本とイギリスくらいしかありません。パイプラインで周辺の国と容易に接続できない島国ならではの事業形態だったのかもしれませんが、そうした環境がガス空調や高効率なガスコージェネレーションなどを生み、普及させていったともいえるでしょう。

 

やがて、ヨーロッパにおいて天然ガスのパイプライン供給がはじまり、さらにはマイナス162℃に冷却してLNG(液化天然ガス)に加工して運搬する技術が生まれます。石炭や石油を乾留して製造されていた都市ガスですが、やがて原料を天然ガスに転換する「世紀の大事業」が国内大手ガス会社を中心にはじまります。

 


このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。

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