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2024年08月07日 by 弘本 由香里

【明日のコミュニティ・デザイン お地蔵さん編】流動する人々をゆるやかに結ぶ文化的装置



こんにちは、エネルギー・文化研究所の弘本由香里です。
私はこれからの地域・社会を支える文化やコミュニティ・デザインのあり方について考え、実践的な研究活動に取り組んでいます。

前回(2024年2月14日)の【明日のコミュニティ・デザイン 長屋文化編】では、近世の大坂のまちへと歴史を遡って、先人たちが築いてきた都市居住の知恵に学びました。その続きで、今も身近な街角や路地の奥で生き続けている、お地蔵さんを介したコミュニティ・デザインに注目します。

 

1.人の出入りの激しいまちでともに暮らす知恵

大阪や京都では、歴史的に居住者の流動性の高さが、都市の活力のもとになっていました。定住の家持ち層は1〜2割に過ぎず、8〜9割が流動する借家人たちでした。そこで、人の出入りが激しくとも、まちがバラバラになってしまうことがないように、流動人口を前向きに受け入れながら、ともに生き合うための知恵が磨かれていきました。

その一つが、まちのシンボルとしてのお地蔵さんの存在です。いわば、あちらこちらから集まってきたさまざまな人々をゆるやかに結合し、規範を共有していくための、格好の文化的装置として、お地蔵さんが一役買っていたわけです。困っている人がいればどこへでも駆けつけ、最後の一人まで救うという、庶民に一番近いところに存在する、融通無碍な仏菩薩・お地蔵さんの面目躍如といってもよいでしょう。

 

2.世のニーズに応える地蔵尊と地蔵祭・地蔵盆

江戸時代、町内各所に祀られるようになったお地蔵さんは、まちの発展や暮らしの変化がもたらす数々のリスクに寄り添って、火除け、流行病や盗難除け、安産と子の成長、延命など、日々の切実な願いを受け止めてきました。戦乱の世が遠ざかり、太平の世が続いていくと、お盆に近いお地蔵さんの縁日は地蔵祭・地蔵盆と呼ばれ、まちの宝でもある子どもたちのために行われるようになっていきます。

この日、お地蔵さんの前に祭壇を設け、提灯や絵行燈を飾り、子どもたちは数珠繰りや盆踊りに加わり、お菓子や玩具などのお接待を楽しみます。そして、夜も更ければ、待ってましたとばかり、大人たちが集って宴や踊りが繰り広げられました。

今に続く地蔵祭・地蔵盆の風習です。少子高齢化や人口減少の波に呑まれて消えゆく例も多いのですが、大阪や京都をはじめ多くの地域で、融通無碍に変化しながらしたたかに生き続けている例もたくさん見られます。



近世大阪の地誌『難波鑑』(1680年)に描かれた地蔵祭(右)と盆踊り(左)の様子

(大阪市立中央図書館デジタルアーカイブから)


3.繰り返す受難とよみがえるお地蔵さんの底力

実は、身近なお地蔵さんは、歴史的に数々の受難を繰り返し経験しています。明治の初期には、近代化を理由に、地蔵祭・地蔵盆が禁止され、路傍のお地蔵さんの撤去も命じられました。けれども、路地奥のお地蔵さんはしぶとく生き残って、やがて地蔵祭・地蔵盆も復活していったのです。

暮らしに身近な存在であるということは、裏を返せば世の流れに常に脅かされ続けているということでもあります。たとえば、火事や戦災で焼け出されてしまったり、水害で流されてしまったり、はたまた埋められ、盗まれ、また掘り出され、預けられ、拾われ、移転を余儀なくされ、また祀られと…、激しい流転を経ているお地蔵さんは少なくありません。

一時忘れられても、理不尽に排斥されても、再びよみがえってきているのはなぜでしょう。満身創痍の受難の歴史そのものに、時代時代の人々の痛みや願いが投影されているせいかもしれません。


4.コミュニティの再生へ、新しい縁を結ぶ装置に

今、時代を映す鏡といってもいいお地蔵さんの最前線の姿が、マンションの林立する大阪の都心部に見られます。聳え立つ超高層マンションに移り住んできた新住民と、長年地域に根を張って暮らす住民が、出会い交わることは容易ではありません。そこで、お地蔵さんの出番です。

例えば、天王寺区の五条地区では、五条小学校の西門向かいの将軍地蔵尊の地蔵盆に合わせて、小学校の校庭で盛大に子ども盆踊り大会が開催されます。地蔵尊の保存会と地域の10を超える町会や各種団体が協力して、居住歴や属性に拘らず、ともに夏の思い出をつくることができるようにとの願いを込めて運営されています。

新住民が急激に増加した2000年代初め、天王寺区東上町でも町会が中心になって方除地蔵尊の地蔵祭を復活されました。お地蔵さんの向かいにある東上町公園を舞台に、手作りの多彩な屋台が並ぶ縁日が繰り広げられ、新旧住民のふるさとづくり、ゆるやかなつながりの場づくりが目指されています。

地蔵祭・地蔵盆の風習は、西日本に多く見られるものですが、8月の終わりが近づく頃、24日・地蔵菩薩の縁日とその前後に行われていることが多いです。規模もさまざま、趣向もさまざまですが、目を向けてみると、地域の歴史や今直面している課題、そこに息づく人々の想いに触れることができます。



天王寺区五条地区にて、将軍地蔵尊の地蔵盆に合わせて盛大に開催される子ども盆踊りの様子


ご参考: 『上町台地 今昔タイムズ』Vol.8「有為転変、世情によりそい願いを映し よみがえるお地蔵さんとまちの暮らしの縁起」(大阪ガスネットワーク エネルギー・文化研究所、2017年)

https://www.og-cel.jp/project/ucoro/pdf/timesVol08.pdf

 

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