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2024年08月22日 by 山納 洋

【シリーズ】街角をゆく Vol.11 柏原 (大阪府柏原市)



こんにちは。エネルギー・文化研究所の山納洋(やまのう・ひろし)です。

僕は2014年から「Walkin'About」という、参加者の方々に自由にまちを歩いていただき、その後に見聞を共有するまちあるき企画を続けてきました。

その目的は「まちのリサーチ」です。そこがどういう街なのか、どんな歴史があり、今はどんな状態で、これからどうなりそうかを、まちを歩きながら、まちの人に話を聞きながら探っています。

この連載ではWalkin'Aboutを通じて見えてきた、関西のさまざまな地域のストーリーを紹介しつつ、地域の魅力を活かしたまちのデザインについて考えていきます。

 

今回ご紹介するのは柏原。近鉄大阪線・堅下(かたしも)駅、安堂駅、河内国分駅、JR大和路線・柏原駅あたりです。

 

柏原市は、ぶどうとワインの産地として有名です。近鉄大阪線の車窓から、東側の山の斜面を望むと「柏原ぶどう」と書かれた看板の文字が見え、周りにはぶどう畑が広がっています。


山の中腹に見える「柏原ぶどう」の看板


山から見えるぶどう畑と市街地


柏原は、かつては木綿の栽培地でした。山麓にはかつて大和川が流れていましたが、宝永元年(1704)の大和川付け替えにより砂地となった大和川の跡地が木綿栽培に適していたことで、河内木綿の重要な生産地へと発展しました。ですが明治に入り、紡績業が興されると、海外産の安い木綿が求められるようになりました。そして明治20年代に輸入綿花の関税が撤廃され、国産の木綿産地は大きな打撃を受けました。このあたりの歴史的背景は八尾と同じです。

 

柏原では約300年前から、家屋の日陰樹としてぶどうが植えられていましたが、明治11年(1878)頃に堅下村の中野喜平氏が「甲州」の育成に成功し、明治17年(1884)に本格的な栽培を始めました。それが明治末期から大正時代にかけて、堅上や国分にも広がりました。それが木綿栽培の衰退のタイミングと重なったことで、柏原では木綿からぶどうの栽培にシフトしています。

大正時代には、ワインの醸造も始まりました。ぶどう園を経営していた高井作次郎氏は、大正3年(1914)にワインの醸造に成功し、醸造所を興しました。これが現在も柏原で続くカタシモワイナリーの起こりです。昭和の初めには、大阪は全国一のぶどうの産地になりました。また当時は、柏原に54軒のワイン醸造所が存在していたそうです。柏原市の太平寺のあたりを歩くと、木綿やぶどう、ワインで財をなした人々が築いた家屋や街並みが残されています。

 

太平寺の街並み


ですが戦後には、柏原のぶどう畑は昭和34年(1959)の伊勢湾台風、昭和36年(1961)の第二室戸台風により壊滅的な被害を受けています。その後復興したものの、ぶどうの市場価格の下落などによって徐々に活気を失っていきました。

 

カタシモワイナリーの社長・高井利洋さん(高井作次郎氏の孫)は昭和51年(1976)にワイナリーを継ぎ、ワイン作りを続ける中で、販売方法をそれまでの卸から、消費者に直接販売する方法に変えていきました。ワイナリー見学を開始し、ぶどう畑の案内やワインのテイスティングも始め、ファンを増やしていきました。彼らの中からは、ボランティアとしてぶどうの栽培に関わる人も増えてきました。また高井さんは、耕作放棄地となっていたぶどう畑での栽培を借り受けて栽培を継続し、収穫されたぶどうを使ったワイン造りにも取り組んでおられます。

また2012年には大阪ワイナリー協会を設立し、「大阪ワイン」ブランドの発信に努めてこられました。2019年の「G20大阪サミット」の夕食会などでカタシモワイナリーのワイン等が7種類採用されたことで、柏原のワインの認知度はさらに上がってきています。


カタシモワイナリー本社


また柏原では近年、ぶどう農家の後継者の中から、品質にこだわったぶどう造りに取り組む若い人たちが出てきています。その背景には、JA大阪中河内のぶどう栽培同好会と柏原市4Hクラブ(農業青年クラブ)の人たちが共同のぶどう園でともに作業し、お互いの畑を行き来し、教え合いながら栽培技術を向上させてきた、という取り組みがあったそうです。

 

柏原市で栽培されているぶどうの8割は「デラウェア」という、赤紫色の小粒種のものですが、近年は糖度の高い大粒種の需要の高まりを受けて、ベリーA、ピオーネ、シャインマスカットなども盛んに作られています。特に皮ごと食べられるシャインマスカットの人気は高く、今ではほとんどの農家で栽培されているようです。

ぶどうの出荷時期は6月から10月中旬までです。この時期、柏原市内では各地区の出荷場からぶどうが出荷され、またぶどう農園の直売所が市内のあちらこちらに立ち並んでいます。



直売所の店頭に並ぶ柏原産ぶどう


畑に実る大粒種ぶどう


最近、柏原には「ポンタ」という新種のぶどうが登場しています(公募により「虹の雫」と名付けられました)。巨峰とブロンクスシードレスの交配種で、濃厚な甘みと芳醇な香りがあり、栽培時期によって果実の色が淡い赤、黄緑、黄と変わるのが大きな特徴です。1973年(昭和48年)に大阪府立環境農林水産総合研究所で開発されつつも、色の不安定さなどの理由から品種登録が見送られていましたが、大阪オリジナルのぶどうとして近年再注目され、2018年に品種登録されました。ブドウは植えてから4〜5年で実をつけるので、来年頃には市内の多くの直売所で見かけるようになりそうです。

 

 

JA大阪中河内・柏原市役所・大阪府は共同で「かしわらもんMENU」と称して、柏原産ぶどうを使ったオリジナルメニューづくりに取り組む市内のお店をバックアップしています。そして、街の風景の中にも、マンホールや川の手すりにぶどうの絵柄を採用したり、太平寺地区の坂道を石畳風の舗装にしたり、ぶどう畑の下の小道を遊歩道化したりと、ぶどうのある風景の美装化にも取り組んでいます。

 

このように、柏原では現在、ぶどう農家、ワイナリー、ショップ、公的機関がそれぞれの役割を果たしつつ、柏原産ぶどうのブランド化を着実に進めておられます。

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