「歴史に学ぶエネルギー」をシリーズで考えています。世紀の大事業ともいわれた天然ガス転換を経て、日本においても天然ガスの普及がますます拡大していきます。
1)燃料の選択を考えてみよう
もし、あなたが製造業の企業経営者だったら、と仮定します。製造業のなかでも、製紙や化学などの素材産業のように、熱利用に対して膨大なエネルギーを消費する工場だと仮定します。
ではあなたは、工場で使用するエネルギーつまり燃料をどのような観点で選択されますか?
工場が地方の海辺にあったとします。すると自社で港を整備して、自ら石炭を輸入して利用する選択肢もありえます。もちろん、石炭を燃やした際に発生する煤塵や硫黄酸化物の排出を法律や条例の規制値以下にまで抑える環境対策は、万全にしなければなりません。
そのような対策をとってまでも石炭を利用するもっとも大きな理由は、燃料コストの安さです。企業経営にとって、経済性は重要な指標のひとつです。
一方で、石炭の管理には人手がかかります。固形物の運搬も容易ではありませんし、排気ガスの無害化や燃焼後の残渣物の処理も必要になります。人件費の高騰とともに、やがて石油の利用が視野にはいってきます。
工場の場所が海辺から遠く都心部に近いと、石炭という選択肢はなくなります。比較的安価な石油製品である重油や灯油が選ばれます。もちろん、これらの燃料においても環境規制に準じることは、当然の義務として真摯な対応が必要です。石油製品はタンクローリーで運搬できるため、電力のインフラさえ整えることができれば、工場の建設用地の自由度が広がるという利点があります。
街中に工場がある場合は、近隣住民への対応もさらに考えなくてはなりません。たとえばタンクローリーが頻繁に出入りすることで、迷惑をかけているケースだってあるでしょう。地価の高い都心部では土地の有効活用は必須ですので、導管による天然ガス供給に変えることで、重油などの燃料タンクを撤去することも選択肢にはいってきます。
企業としては、近隣対策や環境対応はとても大事なテーマです。それと同時に、経済性も重要な指標です。通常、石炭よりも重油・灯油のほうが、重油・灯油よりも天然ガスのほうが燃料コストはあがります。企業として、いくら環境によいからといって、簡単に燃料を転換するわけにはいきません。
では、環境によい天然ガスに転換するために、各企業はどのような工夫をおこなっているのでしょうか。
2)天然ガスの優位性とは
重油や灯油などの液体燃料は、バーナで燃やす際には燃料を霧状にして燃焼しやすい状態にします。大容量バーナのように蒸気の力で噴霧する場合もありますが、電気ポンプによる圧力噴霧やモータの回転力で噴霧させるケースが多いです。
しかし、どれだけ頑張って細かく噴霧したとしても、空気ときれいに混合するとは限りません。燃焼後に燃料の未燃成分が残ることを避けるためにも、燃料を残らず完全燃焼させる必要があります。そのためには、燃焼に最低限必要な空気よりも多くの空気をバーナに送り込むことで、完全に燃焼させます。
こうして供給された余分な空気は、炉内の温度と同じ温度にまで上げられて、そのまま排気ガスとして排出されます。つまり1,000℃に設定された工業炉では、余分な空気も1,000℃にまで昇温して捨てられます。
燃料がもつエネルギーがすべて目的物(製品)の昇温に利用されれば加熱効率は100%となりますが、炉体のレンガなどの部材を温めるにもエネルギーがつかわれますし、外壁からの放熱も生じます。そして、高温炉においてもっとも大きな熱ロスが、排気損失なのです。したがって、バーナに供給される余分な空気をどうやって削減するかが、省エネルギーには重要な対策項目となっています。
天然ガスは気体燃料であるため、空気との混合性に優れています。そのため、燃焼時の余分な空気量を極限まで減らすことが可能になります。
また、排気筒に熱交換器を設置することで、常温で供給されるはずの燃焼用空気と熱交換し、つまり廃熱を回収して炉内に熱として循環させることが容易になります。もちろん、液体燃料でも熱交換器の設置は可能です。しかし、とくに重油では燃料中に硫黄分を含んでいるため、金属の腐食がすすみやすく熱交換器の寿命が短くなることから、設置をためらう事業者が多くあります。
天然ガスには硫黄成分は付臭剤にしか含まれていないため、排気ガスからの廃熱回収が容易だというメリットがあります。
このような加熱バーナの省エネという単純なものだけでなく、天然ガスではガス空調として利用したり、ガスコージェネレーションといって発電時の廃熱を蒸気や温水として回収して再利用したりすることも容易になります。
クリーンな天然ガスは環境性に優れていますが、同時に省エネ性にも有効に力を発揮します。一般的に石油よりも高価といわれる天然ガスですが、省エネを追求することで石油と同等かそれ以下の経済性を発揮することだって可能になります。
すなわち、環境面と経済面を同時に達成する手法として、石炭や石油から天然ガスへの転換が波及してきました。そして、さらに近年では二酸化炭素の排出削減が最大の関心事となりつつあり、二酸化炭素の排出が少ない天然ガスへの転換がさらにすすめられているのが実情です。
このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。