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2024年09月27日 by 前田 章雄

【歴史に学ぶエネルギー】45.大きかったイラン革命の代償


「歴史に学ぶエネルギー」をシリーズで考えています。イラン革命で黒星となったアメリカですが、中東での失策はまだ続きます。


 

1)イラク政策も失敗

OPEC第二の石油産出国であるイランをみすみす手放すことになったアメリカですが、アメリカの失策はさらに続けられることになります。ドイツに続いてイギリスが攻め入って紛争の種を撒いてしまった中東ですが、近代国家へ変わろうとする中東諸国をアメリカは武力で押さえつけようとしました。

反米となったイランに対し、アメリカは隣国イラクにサダム・フセイン政権を擁立させ、イランに対峙させたのです。

民族的に見てもペルシャ民族が多いイランとアラブ民族主体のイラク、宗教的に見てもイスラム教のスンニ派が多いイランとシーア派が多いイラク。それらの歴史的な対立をうまく活用し、全長120?にもおよぶ境界に位置する石油資源の取りあいという形へ発展させました。長期にわたるイライラ戦争とも呼ばれたイラン・イラク戦争を故意に起こさせ、イランの国力をそぎ落とそうと画策したわけです。

その背景には、軍産複合体として中東諸国へ軍備を売りつける目的もありました。アメリカとしては、もうひとつの目的でもあるイラクへの軍需物資の輸出には成功したわけです。

 

しかし、こうした動きが逆効果だったことは、その後の歴史が証明しています。

イランを疲弊される目的ではじめさせたイライラ戦争が8年も続き、逆にイラクの経済が疲弊してしまうのです。イラク国内では、アメリカが育てあげたフセイン大統領がますます力を増し、独裁による腐敗政治が極限まで達するようになりました。そうして突然、隣国のクウェートに攻め込んだのです。

フセインを生んだアメリカ自らが「悪の枢軸」とか「ならず者」呼ばわりするようになり、やがて、フセイン政権を打倒せざるをえない状況に追い込まれます。湾岸戦争の大義であった大量破壊兵器は結局、発見することはできず、にもかかわらず捕らえられたフセインは死刑に処されました。その湾岸戦争においては、イラクはアメリカから購入した兵器でアメリカと対峙したわけですから、一連の動きは「歴史の皮肉」という言葉がぴったり当てはまります。

これらの結果として、イランの反米感情は決定的なものとなり、イランは現在でもあからさまな反米政策をとり続けるようになりました。核開発疑惑をめぐっては、アメリカによる経済封鎖も実施されています。

 

それにしても、ここまで自国ファーストな政策を徹底させる発想は、日本にはありません。しかし、これが世界の常識であり、現代にも連綿と続いているということを肝に銘じておく必要があります。

 

2)アメリカのいいなりになった日本

私たち日本は、このイラン革命を遠い外国で起こった対岸の火事と考えてはいけません。

イラン革命は、極東の日本にも影響しました。アメリカはイランへの経済制裁に対し、ヨーロッパ勢の合意をとりつけます。イランの石油権益奪還という利害関係が一致したからです。考えてみれば、今回のイラン革命に対して経済制裁を加えるというのは、内政干渉そのものです。しかし、自国ファーストな欧米列強は一致団結した動きをとるのです。

つぎに従わせるべきは、強大な石油輸入国である日本です。欧米企業がいくらイラン産石油をエンバーゴ(禁輸)しても、日本の商社が豊富な資金で購入すれば、効果がなくなってしまうからです。

 

案の定、アメリカがボイコットした石油のほとんどに匹敵する量を日本が買い、日本は余った分をアジア諸国へ転売しはじめたのです。もちろん、自由経済の時代です。買ったモノを日本がどのように活用しようが、その権利は絶対に守られなければならないはずです。

しかし、アメリカは日本政府に対して公然と非難し、ヒステリックなまでの抗議をおこないました。その時の日本政府の対応は、とてもすばやかった。すぐさま陳謝し、アメリカの要請に応じたのです。石油のほぼ全量を輸入に頼っている日本です。アメリカは資源貧国の日本に対し、代替の石油を提示するでもなく、ただ単に自国利益のためだけに一方的に命令し、独立国であるはずの日本は素直に従いました。

その昔、イラン国内のモサデグによる反乱の際、イギリスによるイラン産石油へのエンバーゴ要請に対し、出光佐三が決死の覚悟で日章丸をアバダンに派遣したような行動が奮起されることはありませんでした。

 

今から半世紀ほど昔のできごとですが、現在の日本政府が当時からなにも変わっていない感じがしてしまうとすれば、それこそ喜劇としか言いようがありません。歴史が繰り返されないよう、歴史に学び未来に活かす力が私たち一人ひとりに必要とされているのですね。

 

 

このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。

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