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2024年10月11日 by 前田 章雄

【歴史に学ぶエネルギー】47.鉄の女サッチャーの大英断!


「歴史に学ぶエネルギー」をシリーズで考えています。OPEC結成によって、オイルショックが起こりました。では、オイルショックのように石油価格が急激に高騰すると、どのようなことが起こるでしょうか?

 

1)北海油田・ガス田の大発見!

OPECが引き起こしたオイルショックに対して、じつは先進国のなかでイギリスだけは反対しておりませんでした。

ブリティッシュ・ペトロリアム(BP)によって発掘された北海油田が、英政府にあらたな経済的展望を与えていたからです。北海油田の埋蔵量はイギリスの石油使用量の30年分以上という、とてつもなく大きなジャイアンツでした。

イギリスが一大産油国となれれば、石油の価格は高ければ高いほうが都合よくなります。輸出で外貨を稼ぐこともできるし、そもそも諸外国との競争力も相対的に増していきます。

 

そこで鉄の女サッチャーは、国内で主要産業だった炭鉱の縮小と閉鎖という長期的政策を発表し、2万人の失業者による大規模ストライキと、1万人を超える逮捕者をだしながら断行します。北海油田に賭けたわけです。

サッチャーは、エネルギー政策や環境対応といった表面的な問題だけでなく、労働集約的な石炭産業から天然ガスの輸出産業や金融業界への雇用移動も同時にもくろんだのでしょう。イギリス全体として国を挙げての雇用適正化が実現し、青息吐息だった英経済が復活する機会となりました。

結果論ではありますが、サッチャーのエネルギー政策は先見の明があったと結論づけてもよいでしょう。

 

それにしても、国内で豊富にとれる石炭によって産業革命を実現させ世界を牛耳ってきたイギリスが、チャーチルのように外国産の石油の獲得に走ったり、サッチャーのように自らの手で石炭産業そのものを廃止する選択をとったりするなど、歴代イギリス首相の政策には「この国をどうしていくのか」という哲学や確固たる信念が思想の根底に流れているように思われます。

 

2)新たな供給プレーヤーの出現

オイルショックによる世界的な石油価格の高騰は、人々の関心を新規の油田開発にむかわせました。

北海油田・ガス田にはじまり、メキシコ南部のレフォルマ油田群も開発されるなど、OPECの守備範囲を大きく超えだしたのです。米アラスカでも採掘され、アメリカ大陸横断パイプラインも完成しました。

過熱した油田開発は、技術の進歩とともに海底油田や大深度掘削にむかい、掘削コストの上昇を招きはじめます。

新規油田が稼働をはじめると、当然グラッド(供給過剰)の問題が表面化してきます。30ドルを超えていた石油価格が、短期間で10ドル以下まで落ち込むようになったのです。

石油価格の下落と掘削コストの上昇。世界の石油市場を牛耳ってきたメジャーにとって、暗黒の時代がせまってきました。世界を我がものに謳歌したエネルギー会社の株価が低迷しはじめます。

 

ここで、ブーン・ピケンズのような目ざとい人たちが登場します。

アメリカのテキサスやオクラホマで石油の井戸を掘っていた彼らでしたが、掘削をやめて石油会社の株を買いはじめました。井戸を掘る危険を冒すよりも、安く石油資源を手に入れる方法に気がついたのです。

ピケンズの名は、のちの小糸製作所の乗っとり劇で日本でも有名になりました。ピケンズはテキサスのアマリロ市で生まれます。アマリロ市の産業は放牧と石油、そして核兵器の生産です。アメリカで唯一の核兵器の最終組立工場があり、最盛期は一日に4発の核弾頭を組み立てていました。

ピケンズの父親は、農地を石油会社に売る不動産業者でした。ひとりっ子のピケンズは自信家で独立心が強く、働きはじめてもすぐに独立して石油事業に身をおくことになります。そこで彼の才能と閃きが一気に開花しました。石油会社の株価と会社がもつ資源の評価額に大きな差があることに気がつき、石油会社の買収をはじめたのです。

石油産業の脆弱さを、誰よりも早く、しかもハッキリと見抜いたのです。

 

やがて、ピケンズと同じ動きがアメリカ中に広がり、食うか食われるかの石油会社同士の大買収合戦が繰り広げられることになります。

かつての輝かしきセブンシスターズのメンバーであったガルフ石油のほか、ゲティやシティサービスなど、多くの名門会社が買収されて姿を消していきました。

ここで重要な点を見逃してはいけません。買収のために供出された資金が、あたらしい石油資源を発見することに貢献していない、という点です。同じようなことは、ほかの分野においても歴史的に何度も繰り返されていますので、現代の私たちも「そのカネがなににつかわれ、なんの発展に寄与するのか」をチェックしなければなりません。

なにはともあれ、ピケンズによって石油が単なる金融商品の手段となってしまったのです。石油会社の買収合戦は、石油産業からの資金の流出を意味していました。メジャー経由の石油が激減した結果、中小の石油会社はメジャーとの長期契約がつぎつぎと打ち切られました。

 

こうした変化を見逃さないのが、トレーダーです。敏腕トレーダーたちは機敏に動きはじめました。いろいろなルートからでまわる安いスポット石油を手に入れて、有利に転売するのです。

やがて、架空の石油を売り、タンカーの輸送に時間がかかっているあいだに売値より安い石油を買って引きわたす、という綱渡りのような先物ビジネスまでおこなわれるようになるのですが、それが異常な動きとなって表面化するのはITが普及する2000年以降のお話しとなります。

 

 

このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。

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