こんにちは、エネルギー・文化研究所(CEL)の弘本由香里です。
私はこれからの地域・社会を支える文化やコミュニティ・デザインのあり方について考え、実践的な研究活動に取り組んでいます。
また、それらの取り組みと並行して、さまざまな領域を横断し、研究者と実践者が知を交える議論も重ねてきました。そのエッセンスをまとめて、今秋、共編著『コミュニティ・デザイン新論』(さいはて社)として刊行しましたので、経緯とともに簡単にご紹介します。
1.大阪・上町台地での実践から生まれた授業
書籍『コミュニティ・デザイン新論』(さいはて社)出版の前史となった一冊の本があります。2009年4月発行の共著『地域を活かすつながりのデザイン 大阪・上町台地の現場から』(創元社)です。2000年代初期、大阪の背骨ともいうべき上町台地界隈で生まれた、長屋再生や寺院の活用や、多文化共生など、新たなまちづくりの担い手たちをつないだ、コミュニティ・ネットワークの動きを、当事者と研究者が協働で伝え論じたものでした。私もその一員として活動し、同書の編集・執筆に参加しました。
当時、まちづくりの前線で個々の活動や研究が持つ意味を、地域・社会の文脈の中で横断的に捉え直す機会として、大学コンソーシアム京都と同志社大学とCELが連携し、2007年〜2009年にかけて、学部生向けの単位互換制の寄付講座「コミュニティ・デザイン論」を開設しました。これが、『地域を活かすつながりのデザイン』のベースになりました。
この授業の魅力は、バックグラウンドの異なる実践者と研究者が知を持ち寄り、それぞれが歩んできた道を振り返り、これから往く道を、広い視野のもとに考える機会となる点にありました。そこで、2010年度以降は、同志社大学大学院総合政策科学研究科とCELの教育研究協力による連携講座として位置付け、実践・研究の担い手としての大学院生とともに学ぶ科目「コミュニティ・デザイン論研究」として企画・運営。2023年度まで、レギュラー講師・ゲスト講師合わせて、40名に及ぶ講師陣が同授業に参画し、受講生を交えて対話を重ねてきました。
2.なぜ「コミュニティ・デザイン」なのか
「コミュニティ・デザイン」という言葉は、団塊ジュニア以降くらいの世代にとっては、2011年4月に山崎亮さんが上梓された『コミュニティ デザイン 人がつながるしくみをつくる』(学芸出版社)と、山崎さんの取り組みを伝えたテレビ番組等を通して、記憶に刻まれた方が多いかもしれません。一方、一世代・二世代前に当たる、戦後のまちづくりを長いスパンで見てきた世代にとっては、ハード整備を中心に、専門家が主導してきた都市計画に対して、市民によるまちづくりの重要性を問う中で「コミュニティ・デザイン」という言葉が用いられてきた経緯も思い起こされます。
重要なのは、この言葉が時代や社会の変化の中で、既存の制度の隙間や限界、壁を乗り越えていくために用いられてきたことではないでしょうか。決して、魔法の言葉ではありません。そこに便利な答えがあるわけではなく、むしろ、なぜ私たちがこの言葉を必要としているのかを問い続ける姿勢こそ、もっとも大切なことなのだと気づかされます。
私たちが臨んだ授業の場では、人口減少、ポスト標準家族、貧困・格差、災害復興、多文化化など、社会の構造的な変化に関わる問題に対して、ローカルなコミュニティ・デザインの新たなあり方を模索する問いが重ねられていきました。6校時(18時25分〜19時55分)の授業は、自主的に7校時へ、近所の居酒屋に場所を移して続けられました。
3.難問に向き合う「コミュニティ・デザイン新論」
その間の社会の変動は激しく、大規模災害の頻発、様変わりしたコミュニケーションの形、感染症のパンデミック、国際情勢の不安定化など、先の見通せない状況に覆われています。改めて人間の共同性とは何か、コミュニティ・デザインとは何か、自ずから批判的に捉え直す必要性に迫られてきた日々でもありました。
そこで、長い時間軸を携えて、それぞれが向き合ってきた難問を俯瞰し、より多くの人とともに考える機会としたいとの思いから『コミュニティ・デザイン新論』の構想が動き出しました。長く同授業を統括いただいた新川達郎氏(同志社大学名誉教授)を監修者に、当初から同授業の幹事役でもあった川中大輔氏(龍谷大学社会学部准教授)・山口洋典氏(立命館大学共通教育推進機構教授)・弘本由香里(大阪ガスネットワークCEL特任研究員)が編者となり、版元を引き受けてくださったさいはて社・大隅直人氏をパートナーとして、編集方針を固め、最終的にレギュラー講師・ゲスト講師のなかから15名を執筆者として、本づくりに挑みました。
同書は「現代社会の困難=希望をめぐる難問に挑む!」をコンセプトに、大きく3つの難問を掲げています。第1部「共生社会に向けての包摂/平等はいかにして可能か?」、第2部「むら・まちの持続/縮退はいかにして可能か?」、第3部「現代的な共同性/公共性の創造はいかにして可能か?」です。各部ごとに、3人の論者による多角的な論稿と関連する実践現場から3人のコラムで構成されています。読み進めるための道標として、注目点を説く序章と、協働的実践の今後に向けた終章が、小さな一歩を応援してくれます。また、装幀・装画の早川宏美さん、組版の田中聡さんが、同書の目指す世界の奥行や手触りを見事に表現してくださっています。
目次及び執筆者の詳細は、以下からご参照ください。
https://saihatesha.com/books02-35.html
4.12月22日、難問へのチャレンジを巡って語り合う
来る12月22日(日)14時〜16時30分、大阪にて出版記念セッションを開催します。テーマは「実践者×研究者と語る、現代社会の困難=希望をめぐる難問へのチャレンジ」。政策科学、社会学、減災・人間科学、建築・都市計画学、事業構想学など、多分野を横断して現代社会の困難=希望をめぐる難問に向き合ってきた、実践者・研究者、バックグランドの異なる執筆陣が一堂に会して、ご来場のみなさまとともに語り合います。
3つの難問をめぐるダイアローグ(第1幕〜第3幕)として、本書の第1部〜第3部で設定した3つの難問を巡って、執筆陣がホスト役・ゲスト役・狂言回役・コメント予定者となり、ホスト・ゲストの問答を皮切りに、ご来場のみなさまを交えて対話を繰り広げます。ぜひご参加いただけると幸いです。
会場・プログラム・申込方法等の詳細は、以下からご確認ください。
https://www.og-cel.jp/info_new/1783929_46968.html