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2024年12月06日 by 前田 章雄

【歴史に学ぶエネルギー】55.金融商品と化した石油

「歴史に学ぶエネルギー」をシリーズで考えています。前回のコラムでは、石油の先物が電子取引に移行するや2008年に史上最高値を記録した現象をみてきました。石油が投機筋に支配される金融商品と化したわけです。そうした背景を、詳しくみておきたいと思います。

 

1)石油異常高騰の背景

日本の石油は、9割以上を中東諸国からの輸入に頼っています。中東依存度が高くなっている理由として、日本の石油精製設備と関係があります。

中東の重質で硫黄分が多い石油は、サワー原油と呼ばれ価格も比較的安い。しかし、軽いガソリンを得るには、多額の精製設備が必要となります。一方で、WTIやインドネシアの軽質で硫黄分の少ないスウィート原油は、トッパーと呼ばれる常圧蒸留装置だけでガソリンを生産できます。日本は精製設備に投資をするかわりに、比較的安価な中東産石油をもちいている、という図式です。

実際に日本が依存している中東諸国をはじめとするOPECの石油を合計しても、世界流通量の3割弱しかありません。もちろん、OPECによる政治的な動きも石油価格変動の要因のひとつですが、現在の石油市場は国際カルテルなど思いもよらないほど多極化しているのです。日本の石油価格に対して、OPECの動きだけでなく、アメリカの先物取引による影響が大きくなったのが、2005年頃からはじまった石油異常高騰の背景にあります。

 

ここで、石油価格の過去との相関を振り返ってみましょう。

1980年ごろからの約20年間、石油価格は安定していて1バレル20ドル前後でした。1990年に起こった湾岸戦争の時期を除くと、需要と供給が比較的バランスしていた時代です。しかし、インフレ上昇分や経済成長率を考慮すると、20ドルより高くなっていてもおかしくなかったのでは、といった意見もあります。そうであると仮定すると、比較的低く設定されていた当時の石油価格には、実態経済との乖離が隠されていたのかもしれません。

2001年からはじまった石油高騰のきっかけは、ブッシュ政権時代のアメリカ政府によるドル大増刷をうけて発生した可能性もあります。アフガンやイラクへの軍駐留が長引き、アメリカの財政赤字が膨らみました。そのため、景気刺激策としてドル安を誘導し、貿易収支を改善しようとしました。一般的に増刷で貨幣価値がさがると商品価値があがりますが、資金の一部が商品、とりわけ当時は石油や金(きん)に投下されました。

その証拠に、比較的安定した価格だった石油とともに金の価格もあがりはじめます。2001年に1トロイオンスあたり平均271ドルだった金価格は、2008年には692ドルに上昇しました(GoldBrokerデータ)。一方のWTI石油先物も2005年頃の1バレル40ドル台から異常高騰をはじめ、2008年に史上最高値147ドル(瞬間値)を記録してはじけます。石油バブルがはじけて暴落すると、金市場へさらに資金が流入し、金価格はさらに上昇して2011年には1,896ドル(瞬間値)を記録しています。

 

2)石油に生じた金融商品性

もちろん石油の先物価格には、世界の需給状況も影響しています。中国やインドのエネルギー急増ショック。イラクの生産中断、ベネズエラの減産、そしてアメリカの精製能力の不足。それらが密接に絡みあっています。そのなかでも、アメリカ国内の事情がWTIの先物価格に敏感に影響し、やがて欧州指標の北海ブレント原油やアジア指標のドバイ・オマーン原油にも影響をおよぼすようになったのです。原油はタンカーでどこへでも運んでいけますので、逆に欧州やアジアの情勢がアメリカへ影響をおよぼす可能性もありますが、米WTIの価格変動はかなり強く世界へ影響するようになりました。

 

世界の4分の1の消費量を占めていたアメリカの石油需要は、当時一日あたり約2,100万バレルでした。しかし、米国内のガソリン等の精製能力はそれより小さく、400万バレルは製品輸入に依存しています。これは、そのころの日本の燃料油消費量に匹敵する数量です。

アメリカでは30年以上にわたり、あらたな精製設備の建設は国内で行われていません。ニューオーリンズ市を襲ったハリケーンのカトリーナが原油精製施設にも被害をおよぼし、そのことだけでアメリカ中のガソリンが不足したことがありました。この事実は、アメリカのガソリン事情の脆弱性を色濃く物語っています。

こうした不安材料に、スピキュレーター(投機家)たちが目をつけてもおかしくはありません。アメリカ国内のカネ余り、すなわち経済成長の規模を上回るほど通貨が流通している状態の実質的な金融緩和状態、これを経済用語で「過剰流動性」と呼びますが、それらの投機の影響で実体から乖離した部分、これを英語で Hype といいます。今思えば、石油価格の異常高騰の大部分は Hype であったわけです。規模の小さな石油先物市場へ巨額の資金が流れ込み、それが電子取引によって過剰な回数の取引が生じ、結果として異常高騰につながってしまった、という図式です。

 

やがて、1バレル147ドルを記録した石油バブルがはじけて30ドルへ大暴落し、ふたたび100ドルまで上昇するなど、石油価格は Hype の部分が激しく上下するようになります。その後は規制がかけられたため、以前のような極端な値動きは抑制されるようになりましたが、自由経済の世界ですので、株式などの金融商品と同じような急上昇・乱降下が起こるようになりました。

ここで重要なことは、需要と供給のうち、たとえば供給面に不安な情報が流れたとすると、現実的に供給不足が起こっていなかったとしても石油価格が上昇をはじめ、そこに投機的動きが加わって上昇スピードが加速するという現象が発生するようになった、ということです。

  

 

このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報を、シリーズでお伝えしたいと考えています。次回をお楽しみに。

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