私は、関西・大阪の活性化のため、まちの歴史や文化を楽しくわかりやすく紹介する活動として、音楽の生演奏、映像、語りによる「語りべシアター」の公演を展開しています。
これまで、地元の住民の方々、近畿圏の皆さまを対象に、地域の魅力やこれからのまちのあり様について、興味を深めていただきたく活動を続けてきました。
今回は、先月大阪で実施された、「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪2024」で、大阪倶楽部(現建築)および安井建築設計事務所の100周年アニバーサリー企画としてプロデユースした「語りべシアター&スペシャルトーク」について紹介します。語りべシアターでは、「大阪倶楽部・大阪ガスビルを設計した建築家、安井武雄」に焦点を当て、演出には音楽だけでなく演劇的な手法も活用して上演しました。(上の写真は、今回の公演の模様)
※「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」(通称イケフェス大阪)とは、大阪のまちを1つの大きなミュージアムと捉え、そこに存在する'生きた建築'を通して見えてくる、多様で豊かな都市の物語性を大阪の新しい魅力として創造・発信しようとする取組みです。2013年度から実証実験を経て立ち上がり、今年は11回目として、10月26日、27日に開催されました。
ポスター・チラシ
大阪倶楽部と安井武雄
昨年のイケフェス大阪での「語りべシアター」公演では、私の職場である“大阪ガスビルディング”を中心にその魅力とともに、設計者の安井武雄について紹介しました。
※「安井武雄」や昨年の公演の模様については、こちらをご参照ください。
https://note.com/ognwcel/n/n392806724529
今年は、安井武雄が建築家として大阪デビューを果たした作品といわれる「大阪倶楽部」(現建築)の100周年を記念して、同建物のホールでの開催を企画しました。場所は、現在の大阪市中央区今橋4丁目、地下鉄御堂筋線の淀屋橋駅から西へ数分歩いた所です。
大阪倶楽部は、1911年(大正元)、財界人・紳士の社交場として、誕生しました。特定の業種、業界に偏ることなく有識者らが集い、「知の交流と心のふれあいの場」としての、
伝統的な歴史のある会員制社交倶楽部です。1922年(大正11)7月24日に事故で火事があり、焼失してしまいました。が、その3日後に、また一から建てなおすことが決まり、新たな大阪倶楽部は、いくつか設計案が比較検討された結果、安井武雄が担当する設計案が選ばれます。そして、火事のあった翌年の1月から着工され、1924年(大正13)に完成しました。
安井武雄は「南欧風の様式に、東洋風の手法を加味せるもの」と表現していますが、、倶楽部建築らしい、規律のある典型はきっちり押さえつつ、たとえばスパニッシュやイスラム、東洋的な要素を新たに混ぜながら、どの様式にもおさまらない作品として、大阪倶楽部を設計しました。
大阪倶楽部 外観
2.イケフェス大阪ならではの、特別企画のプロデユース
この2代目の大阪倶楽部完成後、安井武雄はすぐに自立しますが、その際立ち上げた建築事務所も今年100周年を迎えるため、イケフェス大阪の機会に特別な記念プログラムを開催しようと、株式会社安井建築設計事務所様と共催の形で計画を進めることにしました。
それが、「語りべシアターとスペシャルトーク」です。
語りべシアターでは、安井武雄の人生に焦点を当てつつ、大阪倶楽部の魅力や特徴を改めて紹介し、さらに安井武雄の精神を受け継ぐ「安井建築設計事務所」の仕事から未来まで展望する内容に編集しなおしました。そして、スペシャルトークとして、倉方俊輔さん(大阪公立大学教授)、澤田充さん(株式会社ケイオス代表取締役CEO)、佐野吉彦さん(株式会社安井建築設計事務所代表取締役社長CEO)に登壇していただき、建築史からの見解、安井建築設計事務所の100年、そして今後の取り組みの視座や大阪の街についても、広く自由に語っていただこうと考えました。
昼の部は、語りべシアター公演のみ、夜の部は、語りべシアターとスペシャルトークの2本立てとしましたが、いざ当日となりますと、昼も夜も会場は満席、特に夜の部はキャンセル待ちが出るほどで、関西はもとより、東京や愛知、札幌など日本全国からお客さまが来られました。
3,語りべシアターならではの、演劇的なコラボレーション
語りべシアターは、もともと語り(朗読)と画像(パワーポイント)に音楽の生演奏などで演出を加える形式を基本としており、題材によっては、役者も交えた朗読劇形式の演出も取り入れてきました。今回の作品では、一人の建築家の人生を軸に編集するため、安井武雄役として役者さんに参画していただきました。今回依頼した関秀人さんは、舞台や映像などあちこちで活躍されてきたベテランの役者さんで、大正から昭和初期の服装にも詳しく、台本からイメージを膨らませた小道具や演出の提案もいただき、少ない練習回数の中で、台本と演劇、映像、音楽のコラボレーションをよりブラッシュアップさせることができました。
大阪倶楽部の4Fホールは、非常に趣のあるデザインであり、木材を多く使っているため音の響きがあたたかく非常に魅力的な会場です。今回はここでぜひ開催したいと約1年前から予約していました。ただ課題もありました。プロジェクターを天井に設置することができず、舞台の奥行も浅く照明も制約があったため、舞台床を特別に前方に1メートル程度張り出して、語り手の演台とヴァイオリン・尺八の奏者を舞台奥の上手と下手各々ぎりぎりに上げ、その前方のプロジェクターの光を受けない限られた舞台上で安井武雄役には芝居をしてもらう、という判断となりました。当日の仕込み・リハーサル時間を目いっぱい使って、いかにこの環境をベストな状態に調整できるか、知恵を絞りながらの準備となりました。大阪倶楽部のスタッフの皆さまには非常にお世話になりました。
安井武雄役(関秀人さん)と 語り手(筆者)
夜の部後半のスペシャルトークは、登壇者の方々の専門的な知見や経験により、話題があちこちに飛びながらも建築の話から世界の街で各文化に携わる方々が未来に何を見すえて活動しているのか等話が広がり、お客さまも楽しみながら、学ばれている様子が見て取れました。
スペシャルトークの模様
歴史ある100年を刻む「場」で、出演者と昼夜あわせて約400名のお客さまとともに、良質な「場」を共有できたことが大きな幸せでした。1年前よりプロデュースを進めてきた甲斐がありました。共催の安井建築設計事務所様、協力いただいた大阪倶楽部様他サポートくださった方々、ご出演、ご来場の皆さま、ありがとうございました。
今後、今回のような形式以外でも、ご依頼に応じて、出張公演や講話などの形で、活動の取り組みや関西・大阪の物語や都市魅力などを紹介していきたいと考えております。ぜひ気軽にお声がけ、よろしくお願いいたします。
大阪倶楽部4Fホール