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2025年01月14日 by 前田 章雄

【歴史に学ぶエネルギー】57.中露で過熱する資源争奪戦


「歴史に学ぶエネルギー」をシリーズで考えています。石油の先物取引をきっかけに2005年頃から始まった石油価格の高騰は、ロシアや中国などの国々も動かし、やがて過熱した行動にまで発展していきます。

 

1)ロシアが海底に国旗を掲げた

2007年8月、ロシアが北極海で次の行動を起こしました。ロシアの深海潜水艇ミルが、北極点の氷の下4千メートルの海底に国旗を掲げたのです。ロボット・アームを使って、国旗のチタン製ポールを海底に埋めました。

北極点周辺の海域は、公海扱いとなっています。ところがロシアは、北極海を自国領土内の大陸棚の延長上にあるとして、石油をはじめとした資源開発を独占的に行えると主張しました。ロシアの一方的な行動に対し、カナダをはじめ北極海に隣接する沿岸諸国から「根拠が不明である」と異議が唱えられました(※1)。

 

いったいなぜ、ロシアはそのような行動に出たのでしょうか?

北極海は今まで、夏場以外の一年のほとんどが氷に囲まれた閉鎖空間でした。しかし地球温暖化の影響で、地下に眠る石油の掘削が現実的なものになりつつあったのです。

北極周辺は、地球が暖かかった頃の生物プランクトンや植物の死骸の宝庫であり、それらが変成してできた化石燃料の埋蔵が大量にあります。熱帯では、枯れた植物は細菌によって分解されてしまい、炭酸ガスやメタンガスとして大気に放出されてしまいます。しかし、寒い北極圏ではその作用が小さく、有機物は泥炭として堆積され、地中深い場所で変成したものは石油や天然ガスとして貯蔵されています。炭素が地下に多く蓄えられている地域、それが北極圏なのです。米国地質調査所(USGS)が2008年に公表した評価結果によると、北極海には世界の未確認埋蔵量のうち石油が13%、天然ガスが30%残存しているとされています。

地球温暖化によって、北極海での航海が容易になります。太平洋へ出るためのベーリング海峡が冬でも通ることが可能になるとの見解もあります。そうすると、北極海沿岸の石油を太平洋沿岸地域へ短距離で運ぶことだってできるようになります。こうしたことを背景に、ロシアが北極海海底の資源の自国所有を主張しているというわけです(※2)。

 

2)中国も海底に国旗を掲げた

ロシアにつづき、中国も石油資源の獲得に動きはじめました。中国はまず、アフリカ大陸への影響力を拡大させていきました。

内戦が続き、政府軍による民間人への攻撃が明るみに出たスーダン。スーダンの政府軍は、テロ支援や人権侵害のため国際社会から非難されました。国連安全保障理事会においても、スーダン政府への制裁提案が提出されましたが、中国は拒否権を発動しました。さらに、中国からスーダン政府軍への軍事物資が供与されたため、アメリカ下院からも非難声明があげられました。

国際的な経済制裁にともなって、欧米の石油会社はスーダンから撤退したのですが、その間隙をぬって中国はスーダンの石油権益を獲得しました(※3)。中国は、諸外国から非難されることよりも、石油資源の獲得を優先したというわけです。

 

中国は、インドネシアやブルネイ、マレーシア近海に存在する石油資源を巡って、南シナ海でも次の行動を起こしています。中国海軍の潜水艦が南シナ海の最深部に潜航し、中国国旗を掲げたのです(※4)。ロシアと同じく、公海の海底資源に対して中国も自国所有を主張しています。

また、東シナ海の日本との境界線近傍でも、石油掘削を一方的に始めています。日中両国に挟まれた東シナ海の幅は400カイリに満たず、両国の海岸線から200カイリの海域は重なりあいます。日本はそれぞれの領土から等距離の「中間線」を境界にすべきと主張しています。これに対し、中国は大陸棚の地形に沿って境界を引くよう主張しています。

東シナ海には日中どちらの排他的経済水域(EEZ)に含まれるかがはっきりしないガス田が点在しています。そこで中国は、日本が主張する境界線より中国側で掘削を始めたのですが、地下の油田はつながっている可能性があります。日本は中国との共同開発を打診しているのですが、事態が進展しないまま中国側が構造物を建設している状態です(※5)。

一方で、この海域は台風銀座であり、陸からも遠い。そのため大規模で頑丈な生産設備が必要となるのですが、ひとつひとつの鉱区は小さい。そうしたことから、この鉱区で採算がとれるとは思えないという指摘もあります。中国は、目先の経済性よりも長期的な資源獲得を優先させているのかもしれません。

 

中国は、トルクメニスタンからウズベキスタンを経由し、カザフスタンを通過する天然ガス長距離パイプラインも敷設しました。2003年、2005年、2009年にと段階的に開通しています(※6)。

ユーラシア大陸の西に位置し、世界最大の湖であるカスピ海には西岸のバクーに大油田群がありますが、近年は東岸のカザフスタンでテンギス油田などのジャイアンツ(巨大油田)が見つかっています。また、カザフの隣トルクメニスタンでは巨大ガス田がつぎつぎと見つかっており、トルクメニスタンの天然ガス埋蔵量は周辺諸国と比べると圧倒的に多くなっています(※7)。トルクメニスタンからは、カスピ海を西へ横断してヨーロッパへ供給するパイプラインも計画されていましたが、中国はユーラシア大陸を東へ向かって横断する「中国カザフスタン線」に資金を供出し、先取したわけです。

中国の西部といえば、砂漠地帯です。大きな都市もなく、天然ガスの需要は多くありません。しかし、その地域から東の海岸部へのパイプラインが中国国内でも敷設されました。このようにして、ソ連時代の衛星国だったトルクメニスタンから直接、中国海岸部へ天然ガスが流れる仕組みが中国主導でつくられたのです。

やがて、ロシアから中国へ直接供給される天然ガスパイプライン「シベリアの力」も敷設され、2019年12月に開通します。こうした一連の流れは、ロシアによるウクライナ侵攻にも関係していきますが、その物語はまだ先の話です。

 

 

図 中国国内外の主な天然ガスパイプラインイメージ

 


このコラムでは、エネルギーに関するさまざまなトリビア情報をシリーズでお伝えしたいと考えています。また、全編に共通した参考文献は初回に提示しておりますので、適宜ご参照ください。次回をお楽しみに。


(※1)朝日新聞GLOBE+ 2023年3月18日『北極争奪』郷富佐子著

(※2)近年のロシア資源情報は、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 2021年7月28日『北極域における石油天然ガス開発』原田大輔著をご参照ください。

(※3)当時の中国の対アフリカ政策については、科学技術振興機構『中国経営管理研究』第6号2007年5月『45 中国の対アフリカ外交と企業進出』須藤繁著をご参照ください。

(※4)新華網(準国営新華社通信の電子版2010年8月26日報道

(※5)外務省令和5年1219日『中国による東シナ海での一方的資源開発の現状』

(※6)NEC business leaders square wisdom 2022年3月25日『中国とロシアをつなぐ天然ガスパイプライン』田中信彦著

(※7)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 2022年1月20日『天然ガス大国トルクメニスタンの上流事業・ガス輸出事業概観』四津啓著



  

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