こんにちは。エネルギー・文化研究所(CEL)の山納(やまのう)です。
EXPO2025 大阪・関西万博、いよいよ始まりましたね。
さて、今回は、CELが万博のガスパビリオンで行う研究についてご紹介いたします。
ガスパビリオン「おばけワンダーランド」(日本ガス協会)では、ゴーグルを使って現実世界と仮想空間を組み合わせる技術「クロスリアリティー(XR)」によって、おばけの世界を体験し、そこから未来の都市ガス「e−メタン」(合成メタン)について学んでいただけます。今回の研究は、万博開催期間中の70日間に、70歳以上の高齢者18名が、有償ボランティアとしてガスパビリオン内での軽作業に従事いただき、その作業中のバイタルデータを取得・解析するものです。
ガスパビリオン「おばけワンダーランド」内の体験スペース
目指すのは「高齢者の健康・生きがい就労」の促進
CELでは現在、活力ある高齢社会づくり、定年後の生き方の研究の一環として、「健康・生きがい就労トライアル」の提案・実践を行っています。この取り組みは、市町村の事業として、高齢者が無理のない範囲で働ける仕事を事業者に提供いただいて、3ヶ月間お試し就労をしていただき、雇用主と高齢者の双方が望めばその後も継続的に働くことができる、というものです。高齢期に無理なく持続的に活動(就労)することで元気・健康を維持でき、生活不活発化によるフレイル(虚弱)を防ぎ、介護予防に役立てることをめざしています。
この取り組みを進めるため、大阪ガスネットワークは2024年に「高齢者の健康・生きがい就労等に向けた連携」についての協定を大阪府と締結し、府内の市町村における就労トライアルやDX(高齢者向けスマホ講座など)、高齢者の社会参加の推進、促進などを進めています。現在までに、大阪府下の7自治体で就労トライアル事業を展開いただいています。その主要な担い手は、元CEL研究員であり、現在は自ら設立したNPO法人「健康・生きがい就労ラボ」の理事長である遠座俊明さんです。
転倒リスク防止につながる、血圧の連続測定
今回ガスパビリオンでの高齢者研究は、大阪大学、株式会社Arblet、NPO法人健康・生きがい就労ラボ、大阪ガスネットワーク株式会社の4者共同で行います。研究のテーマは「高齢者の就労が血圧変動性に及ぼす影響の検討」。高齢者の方々にはパビリオンでの作業中にウェアラブルデバイスを装着いただき、血圧と脈拍と動作データを連続的に測定します。少し専門的な内容になりますが、ご紹介します。
高齢者就労の促進を図っていくためには、労働災害をいかに減らしていくかが大きなテーマになります。
特に高齢者の場合には、労災事故は要介護に直結する危険も伴うため、そのリスクを分析し、対策を取ることはとても重要なことです。特に高血圧は65歳以上の半数以上が有する慢性疾患ですが、高齢者は血圧変動が大きく、そのことが転倒や骨折と関連していることが多くの研究で明らかになっています。
今回の研究では、株式会社Arbletが開発した血圧測定システムを導入します。前腕に装着したウェアラブルデバイスからの生体信号を用いて血圧を演算するというもので、理論的には拍動ごとの血圧の測定が可能で、昨年10月に薬事承認を取得しています。またこのデバイスには慣性センサーが組み込まれておりその時々の動きに関するデータも同時に取得することができます。
Arblet社が開発したウェアラブルデバイス
これまでは連続血圧測定としてはABPM(24時間自由行動下血圧測定 ambulatory blood pressure monitoring)といって、上腕に血圧を測定するための帯を巻き、加圧チューブを介して腰に取り付けた血圧計と接続し、血圧の変動を30分間隔等で測定していましたが、今回導入するデバイスシステムを用いると、装着者がより違和感なく行動でき、また作業中の血圧変動とその時の動作を持続的に測定することができます。
参加いただく高齢者の方々には、3グループに分かれていただき、パビリオンで午前・午後4時間ずつ、0〜3日おきにウェアラブルデバイス装着下で軽作業を行っていただき、データ解析により活動中の血圧を算出します。70日間の活動の前半、後半で午前・午後の活動時間を入れ替え、血圧変動と関連する因子として参加者の臨床情報、活動時間帯、活動開始からの期間、活動間隔等も含めて解析を行います。
血圧が一日の活動の中でどれぐらい変動しているのかを知り、より良い血圧管理を実現することができると、血圧降下による転倒・労災のリスクだけでなく、血圧上昇によって起こる脳卒中や心臓病のリスクにも対応できるようになると考えられています。
高齢者がより安全に働けるための研究を深めていくとともに、短時間でも働ける「プチ就労」を促進することで、高齢者が社会の担い手であるという認識を広く伝えていきたい。今回、ガスパビリオンで共同研究を行う背景には、そうした思いがあります。
もしみなさんがガスパビリオンに行かれる機会がありましたら、作業をしている高齢の方々に注目してみてください(長袖ジャンバーを着ておられるので、手首のウェアラブルデバイスは見えないかと思いますが…)。
ガスパビリオンでの研究に参加する高齢者と管理スタッフ