弘本 由香里
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2003年12月15日 |
弘本 由香里
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住まい・生活 |
住生活 |
新聞・雑誌・書籍 |
大阪府立女性総合センター『DAWN』2003年冬号 |
大阪の住まいの原点ともいえる長屋が、今再び脚光を浴びている。まち暮らしの知恵や、木と土でできた空間の安心感、使いこまれた柱や梁が醸し出す味わい。新築の住宅やコンクリートのマンションでは、たやすく手に入れることのできない、古い長屋独特の存在感に魅せられて、新たに長屋暮らしを始めようとする人たちがあちこちに現れ始めている。
そんな新世代の長屋暮らし人たちをたずね歩く機会に恵まれた。都心部にありながら、奇跡的に戦災を免れた、空堀商店街界隈(大阪市中央区)。石畳の路地をほんのちょっと入ったところに建つ、質素な長屋に暮らす若い家族、夫妻と今年一歳になる男の子との出会いもその一つ。
夫妻は、あたかも長老の長屋とゆっくり対話でもするかのように、こつこつと時間をかけながら室内の修繕や改装を進めてきた。そんな住まいづくりの日々の中で、やがて男の子が誕生した。
マンション暮らしをしていた頃は、隣の人ともお向かいさんとも付き合いはなかったという夫妻だが、今の暮らしはまるで違う。「知り合いが増えて、みんな声をかけあうでしょう。気がついたら、マンション暮らしの頃に比べて、自然にニコニコしていることが多くなりました」。「お年寄りから子どもまで、いろんな人が支え合って生きているのが長屋のまち。初めて行った公園でも、お年寄りがやさしく話しかけてくれます。そんなまちの中でこの子が育っていくことが、ほんとに素晴らしいことだと思うんです。ここで暮らしてよかったなあと」。なるほど、大阪の住まいの原点、長屋には人を育てる力があるのだ。