山下 満智子
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2002年09月30日 |
山下 満智子
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住まい・生活 |
食生活 |
CELレポート (Vol.15) |
「狂食の時代」The Great Food Gambleは、日本で狂牛病が発生する前年の2000年3月に書かれた。著者はイギリスのジャーナリストの一人でありBBCラジオのニュース報道番組「トゥデイ」のニュースキャスター、ジョン・ハンフリースJohn Humphrysである。日本語翻訳本では、著者と同じくニュースキャスターでもあるジャーナリストの筑紫哲也氏が解説を書いている。
イギリスでは、80年代の半ば以降17万頭もの牛が狂牛病に感染し、470万頭が殺された。そして1990年代の初めには、BSE(いわゆる狂牛病)の恐怖の全貌が明らかになりつつあった。しかしイギリス政府が、ようやく人の進行性痴呆症新ヤコブ症は狂牛病からの可能性が高いと報告したのは、1996年である。いわゆる第一次狂牛病パニックがおこった。そして本書の出版された2000年夏には、ついに欧州各国で狂牛病が発生し、第二次狂牛病パニックが起きたのである。そして2001年9月10日日本でも狂牛病の発生が報告された。
著者であるハンフリースは、「狂牛病は、始まりにすぎない」と言う。失われた大地のバランス、そして食品添加物、抗生物質漬けの養殖魚、細菌、遺伝子組み替え食品など、戦中戦後の食料不足から始まったイギリスの補助金漬け食糧政策による食の品質や安全性の瓦解の始まりだというのだ。
また著者は、貴重な農業遺産の破壊、みずみずしい草地、そして失われた小鳥のさえずりに対して社会はどんな価値をつければいいのか。政治家や業界が言うように本当に現在の食料は安いのかと問う。時には必要としない食物や生産しないことに対しても支払われる農業補助金は、すべて税金なのであると。また汚染された飲み水から化学物質を取り除く費用や、食品中の残留農薬が健康に及ぼす被害もコストとして考えなくてはいけない。その上に最後のコストとして食物そのものの品質と安全性が脅かされだした。BSEの財政的な負担は50億ポンド(約9.2兆円 2002.9/2)に近い驚異的なコストになったという。