安達 純
2001年09月30日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
カテゴリー |
媒体(Vol.) |
備考 |
---|---|---|---|---|---|
2001年09月30日 |
安達 純 |
住まい・生活 |
ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.58) |
季刊誌CEL58号「CELからのメッセージ」 |
「生活者」へのアプローチ
「生活者」という言葉は、考えてみると不思議な言葉である。字面通りに読めば、衣食住を中心に日々生活する人であるから、誰もが「生活者」ということになり、ほとんど意味をなさない。給与生活者とか年金生活者というように、何か修飾語をつけてはじめて存在価値が生まれることになる。一方で、学生は自分で稼いでいないから「生活者」ではないと言うときのように、分析的に「生活者」に迫るアプローチがあるかも知れない。しかしそれも、あまり生産的な議論ではない。
私たちが「生活者」という言葉を使うとき、ある種の積極的な意味をこめていることがある。けれども、気持ちだけが先行して、それをはっきりとした形で表現することはできない。「生活者」という言葉に、ある種のもどかしさを感じる最大の理由がそこにある。このもどかしさを少しでも解きほぐしてみたいと思う。
(1)暮らしの目線
「生活者」という言葉から、身近なところですぐ頭に浮かぶのが、「暮しの手帖」である。「暮しの手帖」は一九四八年に花森安治によって創刊され、半世紀を経た現在も続いている生活情報誌の老舗である。ここには、使う身に立っての商品テストや手軽にできる料理、健康、環境、老人、子供など生活に関わるテーマが幅広く取り上げられている。「暮しの手帖」の見返しのページには、花森安治の次のようなメッセージが掲げられている。
これは あなたの手帖です
いろいろのことが、
ここには書きつけてある
この中の どれか 一つ二つは
すぐ今日 あなたの暮しに役立ち
せめて どれか もう一つ二つは
すぐには役に立たないように見えても
やがて こころの底ふかく沈んで
いつかあなたの暮し方を変えてしまう
そんなふうな
これは あなたの暮しの手帖です
ここで呼びかけられている「あなた」は、「暮し」を意識化し、より良い生活をしたいと願う、主婦層を中心とした「生活者」である。「暮しの手帖」は暮らしの目線からの「生活者」へのアプローチなのである。「あなたの暮しが変わる」のは、あなた自身が変わることによってであろう。