香山 リカ、小林 詩織、多木 秀雄、当麻 潔、豊田 尚吾、山下 満智子、弘本 由香里
2010年10月01日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
カテゴリー |
媒体(Vol.) |
備考 |
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2010年10月01日 |
香山 リカ、小林 詩織、多木 秀雄、当麻 潔、豊田 尚吾、山下 満智子、弘本 由香里 |
住まい・生活 |
ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.94) |
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今号では、「これからの住まいとライフスタイルに関する生活意識調査」の結果をもとに、持続可能性と生活満足について、特に世代間の意識差などに着目し、多面的な分析を試みている。今回の座談会では、精神科医としての豊富な臨床経験のもと、現代人の心の問題を探究されている香山リカ先生にお話をうかがいながら、エネルギー・文化研究所(CEL)研究員と現役大学生を交えたトークを通して、「持続可能性と生活満足」に関する若者と中高年層の意識差などを浮き彫りにしつつ、共にその問題点を探った。
−自分の将来像を描いていくことが難しい社会−
多木
今日は皆様ありがとうございます。CEL94号では、私どもの研究所で行った生活意識調査の結果をレポートしており、今回は特に世代間の意識差を問うということで特集を組んでいます。現在は、将来が見えにくい社会になっていると思われますが、その中で、若者たち、次世代の生き方について、今どんな現象が現れてきているのか、香山先生からご意見を聞かせていただき、また今日は現役の大学生の方にも来ていただいていますので、若い方の本音や実感を話していただければと思います。
香山
生活という話になってくると、それぞれの世代特有の、社会背景や経済状況とのかかわりが大きいですね。そう考えると、日本が高度成長からバブルという経済的な栄華を極めた時代をよく知っている人たちと、それ以降の就職氷河期とかの世代では、かなり違うのではないかと思います。若い人は将来に夢を持ちますが、バブル以降に物心ついて成長してきた人たちは、なかなか自分の将来像を描けないのが現実です。特に、いわゆる冷戦が終わり、政治闘争ではなくてグローバル経済の中でどこが生き残っていくかという時代になってからは、大きな物語の中で自分の将来像を描き、社会に自分自身を位置づけていくことができなくなっています。だから、個人としては、目の前のことにどうやって勝ち続けていくかということだけが重視されがち。個人の努力によって、いかようにも人生を展開できるというような幻想もありますが、私も診察室などで見ていると、目の前の競争で一喜一憂しながら、給料が上がったとかといってステップアップしているつもりでも、30、40代になってくると、どこかで「私は何のためにやっているんだろう」と疲れが出てくる。そういう意味では、一見、昔より今の方が自分の人生を計画通りにやっていけるように見えますが、そうした個人的な目的なども、他者との比較の中でだけ成り立っています。
多木
今は若い頃から受験勉強に追われるなど疾走している、ひたすら走っているように思います。自分が人生をどういうふうに歩もうかと立ち止まってじっくりと考えることが少ないように感じます。