多木 秀雄
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2011年03月25日 |
多木 秀雄
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住まい・生活 |
その他 |
情報誌CEL (Vol.96) |
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-はじめに-
持続可能な発展に関する国際規格の第一号となるISO26000が2010年の11月に発行され、政府・企業・労働者・消費者・NGP・NPOなど、社会・経済・生活・文化を支える多様なステークホルダーが、「すべての組織のための社会的責任(SR)」を共有し、持続可能な社会の実現に向けて課題解決を図る社会が目指されている。こうした社会背景の中で、企業は社会とどのような関係をつくり、今後どのような役割・責任を果たしてゆくべきであろうか。今、企業を含む、社会を構成するすべてのセクターにおいて、価値観の大きな転換が求められている。
今回の特集では、「持続可能な未来につなぐCSR(企業の社会的責任)」という観点から、企業や社会にとってのCSRの本質的なあり方を改めて考えてみた。
-これまでのCSR-
CSR、SRは、各国の社会風土や文化、企業を取り巻く環境によりその考え方や定義に違いがある。日本では、CSRという言葉は90年代の初め頃から社会的によく使われるようになり、2003年がわが国でのCSR元年と言われる。この年に、経済同友会が第15回企業白書『「市場の進化」と社会的責任経営』の中でCSRに主眼を置いた「企業評価基準」を提唱した。また、各企業ともに担当部署を設置し、環境報告書の発展形としてのCSRレポートを発行する等、CSR重視の経営を行ない始めた。当初は、多くの企業において、不祥事の未然防止、法令遵守というリスク管理的な側面からCSR活動が行なわれた。日本では、法令遵守、環境問題への対応が中心的取り組みとみなされることが多く、欧米に比べると、CSRが社会問題と関連させて
語られることは少なかった。
欧州におけるCSRは失業問題を起源とするとされ、雇用問題や人権問題に関わる社会からの要請が多く、大きな社会的課題への対応として位置づけられてきた。それは法的な要請や契約上の義務を上回るものとされ、またフィランソロピーとも異なる概念である。CSRとは、「社会面及び環境面の考慮を自主的に業務に組み込むこと」とされる。米国におけるCSRは、歴史的背景もあり、地域社会への貢献、利益の一部の社会への還元・寄付であるフィランソロピーが重視されてきた。
-CSRの新しい潮流-
持続可能な社会の実現に向け、社会的課題の解決を図るための担い手のひとりとして企業への期待が高まり、それに対する対応姿勢が多くの人々により多面的に評価されるようになってきた。企業活動のグローバル化、地球環境問題の深刻化等とともに、市民団体やNGO・NPO等による積極的な社会活動の展開により、企業への期待水準が高まり、CSRに関して、これまでの社会貢献・フィランソロピーや法令遵守等を超える取り組みが求められている。
2010年11月、長い年月の議論を経て国際規格ISO26000が策定、発行された。策定の検討は2001年に始められており、世界、社会の変化とこれに伴う要請を読んだものと言える。企業の枠を超え、あらゆる組織を対象としたよりよい社会的責任の果たし方を示すとともに、ステークホルダーをよりよく理解し、尊重することの重要性が提示されている。あくまで第三者認証を目的としないガイダンス規格であり、その実行は各組織の主体性に委ねられるが、これからのCSRのあり方に大きな影響を与えるものと思われる。