情報誌CEL
バスケットボール文化を盛り上げて被災地復興と町おこし
作成年月日 |
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備考 |
2013年03月01日
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花道プロジェクト |
都市・コミュニティ
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地域活性化
まちづくり
コミュニティ・デザイン
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情報誌CEL
(Vol.103) |
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―人気漫画をモチーフに草の根地域振興
全国から若者とバスケファンが集まる町に―
リズミカルな音楽が流れるなか、溌剌とコートを駆け回る選手たち。湧き起こる拍手と歓声││ 東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県大槌町。被災した町を一望する丘の上にある城山体育館で2012年5月20日、地元高校生や社会人、警察官、消防署員、ボランティア団体を含む15チーム、総勢約80名で3on3ルール(※1)のバスケットボール大会「桜木杯」が開催された。運営に当たったのは、大槌町在住者と町外の有志からなる「花道プロジェクト」の面々だ。
「バスケットボールを通じて、大槌を人が集まる元気な町にする」のがプロジェクトの主目的である。発起人のひとり、矢野アキ子さんは震災から数ヵ月後、広島県から大槌町に入ってボランティアに参加。「桜木町」という地区で家屋整理の作業中「桜の花道を作れば、観光の名所になるのでは」と思い立つ。人気バスケットボール漫画の主人公名から連想したアイデアだった(※2)。同じくボランティア仲間で、映像系の仕事に携わる河谷秀行さんに相談するとすぐに意気投合。全国のバスケファンが集うような仕組みをつくり、桜とバスケで町を活性化しよう、と構想が膨らんだ。
その内容をチラシにまとめて町内で告知すると、地元の社会人バスケチーム「JOINT」の年長メンバー、河合秀保さんの賛同を得た。こうして2011年11月、「JOINT」有志を主体に「花道プロジェクト」チームを結成。だがメンバーの多くは被災者であり、日々の生活に追われ思うように事が進まない。そこで「とりあえず何か始めよう!」と矢野さんら町外のメンバーが先導して開催に漕ぎ着けたのが2012年5月の「桜木杯」だった。
「みんなに『楽しかった』と言っていただけたのが何よりうれしかったですし、自分自身も久々にバスケを心から楽しめました」と話すのは、河合さんと同窓生で「JOINT」代表の中村晃一さん。同町では震災後、数々の追悼・復興イベントが行われたが、純粋にスポーツを楽しむイベントはなかっただけに喜びもひとしおだったという。大会終了後、参加選手や観客、裏方で協力してもらった地元の人々から「来年以降もやろう」と自然に声が上がった。
ただし「桜木杯」は告知期間が短かったこともあり、参加できなかったバスケ愛好者や学生も多く、「来年まで待てない」という声が多数寄せられた。そこで半年後の2012年10月に「仙道カップ」と称する大会を開催。前回を上回る19チームがエントリーし、とりわけ町外から多くの参加があり、当初の目的である「バスケで大槌に人を呼ぶ」ことにもつながった。
一方、桜木町に「桜並木をつくる」計画については2013年中に、同地区の裏山にある避難道に苗木を植える予定で進んでいる。並行して「バスケで町おこし」の一環で進めているのが、バスケットボールの屋外コート建設だ。用地については、今後整備されるであろう運動公園や緑地広場等の敷地内に、スペースの確保ができるか行政と協議している。敷設工事などで約1千万円の資金が必要で、各方面に募金を呼びかけている。課題は山積みだが徐々に賛同者も増え、地域を越えてつながる動きも広がりつつある。
「10年後に桜の花道で酒を呑もう!」を合言葉に、プロジェクトメンバーたちは一歩一歩着実に、夢をたぐり寄せようとしている。