西谷 真理子
2013年11月01日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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2013年11月01日 |
西谷 真理子 |
住まい・生活 |
消費生活 |
情報誌CEL (Vol.105) |
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何十年ぶりの猛暑と騒がれた今年の夏だったが、なんと、日本の伝統的な夏のアイテム、ステテコが、若者を中心に爆発的な人気を博したという。ブームのきっかけを作ったのは、2008年に登場したステテコ研究所=steteco.comのようであるが(当時私はファッション雑誌の編集部にいたが、送られてきた情報を見て目の付け所のよさに感心したことを覚えている)、エコファッションとして昔ながらのステテコをイメージアップし、生活に取り入れようという提案は、その後予想外の東日本大震災を経た節電、節約ブームが追い風となり、大きな広がりを見せた。和装小物メーカーなども、ちぢみや楊柳といった伝統の素材を使ったポップなステテコを日常着として次々に発売している。かくいう私も、この夏、ユニクロと京都のブランドSOU・SOUとのコラボ商品のステテコにはずいぶんお世話になった。
それにしても1980年代以降、日本人の生活が猛スピードで西洋化していく中で、前時代の遺物のようになっていたステテコが、ここに来て突然のカムバック。しかも、すっかりファッション商品としてバージョンアップしている。これはいったいどういうことなのだろう。
2011年の夏に、東京・新宿の文化学園服飾博物館で「暑さと衣服:民族衣装にみる涼しさの工夫」という興味深い展覧会があった。節電が切実な時節柄もあり、タイトルに目が吸い付けられた。紹介されていたのは、アジアから、アラブ、アフリカまでの亜熱帯や熱帯の国々の伝統的な衣装である。日本や東南アジアのように湿度の高い国々があれば、乾燥している国、砂風が吹き付ける砂漠の国があり、「暑さ」という共通の厳しい気候をいかにしのぐかが解説されていた。改めて、暑さが日々の切実な問題になるのは、ファッションの中心地であるパリやミラノやニューヨークなどの西欧諸国ではないのだと認識した。
「クールビズ」が浸透しつつあるとはいえ、蒸し暑い夏に、西洋服の基本形であるスーツにシャツにネクタイというスタイルを遵守し、冷房を過剰に効かせて仕事をすることを、そろそろ日本人は再考してもいいのではないか。高温多湿の気候を快適にするのは、身体と衣服との間に適度な空間を作り、風が通り抜けるような構造にすること、放熱をうながす素材を使うこと、そして首元があいていることなどだと民族服は教えてくれる。そう思いながら昨今の欧米のコレクションを観察すると、男物でも通常のシャツ衿ではなく、キモノ打ち合わせのシャツやジャケットを発表するブランドが昨年あたりから登場している。地球温暖化対策として、あるいは、日本や東南アジア諸国に売るために、暑い国の民族服を研究する姿勢を、西洋のデザイナーたちも取り始めている。
ステテコの流行もそんな文脈でとらえると興味深い。次はぜひダボシャツか、作務衣あたりのファッション的応用編を見てみたいものである。