情報誌CEL
父と娘の対話による学び
作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
カテゴリー |
媒体(Vol.) |
備考 |
2016年07月01日
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野村 直樹 |
住まい・生活
都市・コミュニティ
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ライフスタイル
コミュニティ・デザイン
その他
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情報誌CEL
(Vol.113) |
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時間はひとつか
「ねえ、パパ、おしえて。時間ってひとつだけなの?それとも、違うのがたくさんあるの?」
「今日はいきなり難問からきたな。おまえの言っているのは時差のことかい?」
「時差じゃないわ。時差なら学校で習ったもの。東京よりロンドンが9時間遅れで、サンフランシスコは17時間遅れで、でしょ?その違いはわかるわ。そういうんじゃないの……」
「……?」
「なんていうか、楽しい時間はあっという間に過ぎて、待ってる遠足はなかなか来ない、じゃない?そういうことよ」
「あるときは時間が早く過ぎて、あるときは時間はゆっくり進む?」
「そうなの。お友達と遊んで楽しいとき、時計の針も楽しくなってスイスイ進んじゃうみたい。わたし、『時計さん、時計さん、あなたも一緒に楽しくならなくていいのよ』って言いたいわ」
「おもしろい。しかし、キャシー、ふつう大人は時計が楽しさにつられて早く進むとは考えない。時計が早く進んだり遅く進んだりするのは錯覚だと考える」
「錯覚!?だったらわたしの感じ方は間違い?」
「いや、間違いというより心理作用と言っておこうか。おまえとゼルダが楽しく遊んでいるのを横で見ているパパの時間もあっという間に過ぎるかどうか……これは、わからないな」
「……じゃ、こういうこと!?つまり、わたしがゼルダと楽しく遊ぶ時間があって、パパがわたしたちを見ている時間があって、それにまた、時計さんの時間もある。3つちゃんとあるじゃない!」
「おい、まてまて、ちょっと話が早すぎる。もう一度話を整理しよう。いいか、おまえがサンフランシスコから東京に来たとき、日本の小学校に入ったね。たしか2年生だった。おぼえているか?ずいぶん苦労して時計の読み方を教わった」
「おぼえてるわ。長い針と短い針の2つ見て時間を決めるの、よーくこんがらがったわ」
「だが、今では、おまえは立派に時間が読める。パパに向かって『もう時間よ』なんて言う。学習の成果だ!」
「それはそうよ。でもー、それって時計さんの時間でしょ。わたしにはわたしの時間があっちゃだめなの?時計さんが言ったからわたしはお腹すいたり眠くなったりするんじゃないもん」
「おまえの言いたいのは、学校で習う時間じゃない時間もあると、そういうことか?例えば、生物たちの時間というか、渡り鳥は季節になるとやってくるし、ウミガメは産卵の時期を知っているし、ほとんどの生物は約24時間のリズムを備えている。そういう時間のことか?」