情報誌CEL
「ルネッセ」を実践するための新たな試み
文化講座「上方生活文化堂」を体験報告
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2018年03月01日
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情報誌CEL
(Vol.118) |
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過去から現代、そして未来へ――
都市や地域社会の価値を再起動し、つないでいく。
今、大阪で「ルネッセ」のひとつの実践例ともいえる文化講座が始動している。
産経新聞社と大阪くらしの今昔館、大阪ガス(株)エネルギー・文化研究所が仕掛ける「上方生活文化堂」がそれだ。
実際の体験と関係者への取材を通し、この講座が誕生した背景や目指すものを紹介する。
阪急梅田駅から歩いて10分、マンションやビルがひしめく交通量の多い大通りを1本隔てると、突然、昔ながらの木造2階建て仕舞屋造りの主屋と、それを囲むように建つ15戸の長屋群が現れる。NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』の西門家の建物モデルともなった吉田家住宅だ。1921年建造、大正期の都市住宅の姿をとどめる貴重な建物として、国の登録有形文化財ともなっている吉田家の主屋が「上方生活文化堂」の会場となっている。
何ら特徴を見出せないビルや殺風景なオフィスの一室ではなく、通常非公開、今も人が住まう古民家で行われる文化講座は、「場」がもたらす力を最大限に生かした、五感に強く訴えかけるものだった。
大阪の生活文化を学ぶ「上方生活文化堂」
その日は朝から小雨が降っていた。足元のぬかるんだ感触に、この一角だけアスファルト舗装のない土の道であることに気づく。玄関前の手入れされた前栽に、今もここで人が暮らしているという確かな息遣いが感じられた。
玄関を通り、仏間を抜けた先の座敷が会場となる。畳に小さな椅子と机がいくつも並べられたさまは講座然としているが、座敷に設けられた床の間に目を向ければ、そこには掛軸が掛けられ、花入れに季節の花、脇の違い棚に調度品が飾られており、端正な生活の香りに心が安らぐ思いがした。このような時節に寄り添った「しつらい」は、かつて日々の暮らしの当たり前の姿であったが、住空間から床の間が消えて久しい現代の参加者にとっては懐かしく、あるいは新鮮に映るのではないだろうか。
暮らしの気配が濃厚に漂う座敷で行われる「上方生活文化堂」は、午前と午後の2部制となっている。第1部の講演は産経新聞社の論説委員であり、生活文化堂のナビゲーターでもある山上直子氏による開会の挨拶に始まった。
まずは大阪くらしの今昔館(以下、今昔館)谷直樹館長による上方生活文化講座。3回目となる12月のテーマは「大坂の芝居と劇場」。江戸時代、大坂には芝居小屋が建ち並び、上方歌舞伎が京のみならずこの地でいかに華ひらき隆盛を誇ったかを当時の経済状況と絡めて解説、さらに当時流行った上方役者絵がスライドで紹介された。