情報誌CEL
とけあう地域文化・むすびあう地域文化
作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
カテゴリー |
媒体(Vol.) |
備考 |
2018年03月01日
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池永 寛明
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住まい・生活
都市・コミュニティ
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食生活
地域活性化
まちづくり
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情報誌CEL
(Vol.118) |
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ルネサンス文化が花ひらいたイタリアのフィレンツェ。山から大理石を切り出し運河とアルノ川で運び、ドゥオモなどを100年以上かけて建造し、美しい都市をつくりあげた。集められた労働者たちが好んだのは、塩がきつく力強い料理。トリッパという牛の内臓料理など素朴で男性的なトスカーナ料理として今に残る。隣接する州にある世界最古の金融都市であるパルマは上質なハムの優しい料理。このように地域の料理には歴史があり、独自の文化がある。同じイタリアでも地形・自然・気候・産業・歴史などによって、言葉・デザイン・食材・料理・ファッションなどが変わり、地域文化の多様性に驚かされる。それぞれの地域のなかで代々受け継がれてきた文化基盤のもと、人と人が交流しあい、物と物が交易され、文化がとけあって、それぞれの文化をアップデートさせていった。
日本料理は出会いものが本質。地域ごとに、旬の食材の出会い、まじりあう妙を究めてきた。山から野から海から川から集めた新鮮な食材と、昆布・鰹・鮪などの材料の配合比率を季節ごとに変えてとり出した出汁とを掛け合わせ、地域独自の料理をつくりあげた。日本料理の出汁に、地域ならではのDNAが埋め込まれてきた、といえよう。
現代社会、農漁業の生産技術や物流システムの発展によって、食材は一年中どこからでも手に入り、便利な調理器具、世界中の調味料、インスタントやレトルト食品などで、短時間で効率的に料理できるようになった。しかし食卓やレストランに並ぶ料理は、季節感や地域性を失い、どこでも同じ味になった。
パソコンやスマホは、社会やビジネスのプロセスを劇的に変えた。スマホで検索すると、求める答えがただちに手に入る。多くのことを得られたが、多くのことを失った。アウトプットは手に入るが、プロセスがブラックボックス化し、プロセスそのものを変えてしまった。土地を耕し種を蒔き収穫する「文化」を繰り返す、という方法論を失いつつある。
このルネッセ三部作にて、失いつつある文化を取り戻し、地域・産業・生活の本質を再起動するための方法論を考えてきた。内と外、過去と現在を融合し、本来の文化をつないで、未来に向け、新たな価値を創造するというルネッセの方法論を、具体的な場で実践していく段階へと踏み出していきたい。