情報誌CEL
【対談】「文楽」で大阪を再起動する
作成年月日 |
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備考 |
2019年03月01日
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竹本 織太夫 池永 寛明 |
都市・コミュニティ
住まい・生活
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コミュニティ・デザイン
地域活性化
ライフスタイル
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情報誌CEL
(Vol.121) |
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その都市ならではの価値を掘り起こし、再起動へつなげる連続特集企画「ルネッセ」。今号では、六代目竹本織太夫氏に、江戸時代の大坂で花開き今もなお進化し続けている「文楽」の本質を余すところなく抽出していただき、そこから見えてくるこれからの大阪の再起動の方法論について語り合う。
神棚のおはぎをちゃぶ台に降ろす
池永:大阪ガス(株)エネルギー・文化研究所は、「ルネッセ(Renesse)」をテーマに掲げ、活動を展開しています。「ルネッセ」とは、「再び・循環(ren)」と「実在する(esse)」を組み合わせた造語です。都市や地域に埋没する本質を掘り起こし、新たなことと融合して方法論(モード)を再構築し、再起動させようという試みです。これまで情報誌『CEL』で5回にわたってさまざまな観点から発信してきましたが、今回は今一度大阪に立ち返り、大阪の象徴とでもいうべき文楽をテーマに、まちの再起動のあり方と方法論を考えていきたいと思います。
織太夫:文楽は330年以上かけて、ある意味芸術というものになり、今ではユネスコの無形文化遺産になるまでに成長しました。先人たちには感謝していますし、先人たちが携わり大事にしてきたものに対し、私が承継し後世に伝えていくという自覚ももちろんあります。ですが、今のままで十分であるとは思っていません。
池永:テレビも映画もスマホもない江戸時代、人形浄瑠璃は大坂商人たちに熱狂的に支持されました。人形浄瑠璃は商人にとって多面的に情報をつかむ場であり、学びの場であり、当時は決して高尚なものではなかったのですよね。
織太夫:今から335年前、貞享元(1684)年に、初代竹本義太夫が道頓堀に竹本座を興し、活況を呈しました。従来の人形浄瑠璃は、歴史上の人物を主人公とした「時代物」の作品ばかりだったのですが、初代義太夫は当時の市井の人物、江戸時代の現代人を主人公とした「世話物」というものをつくったのです。今のワイドショーネタですよね。
その最初の作品が、『曽根崎心中』です。時代物の歴史上の人物でなく、お初という19歳の若い女の子が主人公。そのおかげで「19歳の女の子が主役なんやて。この間、曽根崎であった心中事件の話をやるみたいよ」と、噂を聞きつけた若い女の子たちがこぞって観にくるようになったんです。実は料金設定も工夫していて、当時手に職をもっている女の子といったら髪結いぐらいでしたが、彼女たちが1日働いてもらえる金額にしていたそうです。