藤田 富美恵
2019年07月01日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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2019年07月01日 |
藤田 富美恵 |
都市・コミュニティ |
コミュニティ・デザイン |
情報誌CEL (Vol.122) |
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2030年には、日本の人口の3割が高齢者となる超高齢社会が到来する。
すでに社会保障、医療、就労人口など、さまざまな問題が顕在化するなかで、地域や組織では、社会の変容とともに世代間の断絶が進んでいる。
大阪・空堀に暮らし、2017年には明治期の長屋を改装し「大大阪藝術劇場」を開設。
児童文学作家として、「言葉」を通しさまざまな問題提起を行っている藤田富美恵氏に世代間断絶により失われてしまったものが何なのかを提言していただく。
そこから見えてくる、今後私たちが残すべきもの、そのためになすべきこととは?
問題提起にあたって
「どうしたら走るのが楽しくなるやろ?」。足が遅く、運動会が憂鬱な小学2年生のトシ子は、地元に住むお年寄りで自分と同じ名前のトシ子おばあちゃんに訊く。おばあちゃんが手渡したのは、チロリアンテープで飾った可愛い足袋のようなもの。おばあちゃんは、自分の祖母に同様の履物をつくってもらって、運動会に出たという。結局それをはいても運動会ではビリだったけど、いつもと違って「もっともっと走りたいほど、楽しかった」というおばあちゃんの言葉に、いつしかトシ子も運動会が楽しみになる……
大阪言葉での何気ないやりとりが、同じように運動会が苦手な子どもたちの活力となるような作品『うんどう会にはトビックス!』(文化出版局刊)は、児童文学作家の藤田富美恵氏が実体験をベースに書いた作品だ。そこには、今は少なくなった子どもとお年寄りの素朴で温かな交流が生き生きと描かれている。
藤田氏は1938年、大阪に生まれた。しゃべくり漫才で一世を風靡したエンタツ・アチャコに台本を提供し、ミヤコ蝶々・南都雄二や夢問題提起にあたって路いとし・喜味こいしをはじめとする多くの上方漫才師を育てた、漫才作家の秋田實を父に持つ。藤田氏が童話を書きはじめたのは、父の他界後、自身の3人の子育てが少し落ち着いた40代からのことという。描くのは、嫁ぎ先である大阪の空堀のまちでの暮らしや路地に住まう人々とのふれあいである。