内田 由紀子
2021年03月01日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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2021年03月01日 |
内田 由紀子 |
住まい・生活 |
ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.127) |
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文化とは狭義の芸術・表現活動にとどまらず、こころに大きく働きかけるものであり、コロナ禍はこうした「こころの文化」に大きな揺さぶりをかけている。
他者との“つながり„を確認し、あるいは新たに創出する「機会」と「場」が失われつつあるなかで、私たちの幸福観はどこへ漂流し、それをこの先も繋ぎとめるには何が必要なのか。
心理学の視点から、文化芸術が果たし得る社会的な役割について考える。
2021年の年が明けた。2020年に引き続きCOVID-19感染対策の決め手が未だ見えない状況にある。今や「Withコロナ」という言葉に代表されるように、コロナと付き合いながらの生活スタイルを考えていかねばならないことが受け入れられつつあるともいえる。このような中でこころの豊かさや幸福はどうなっていくのか。そして私たちが人との「集まり」の中で共有し、育んできた「文化」をどのように維持し、再生産していくのか。「こころ」から見ても、大きな課題に直面しているといって間違いないだろう。
筆者の専門は「文化心理学」である。ここでいう「文化」は芸術や伝統などには限らない広義のものであり、生活習慣やその背後にある価値観や物事の理解の仕方なども含めたものである。人は長い歴史の中で、集団を作って生活をしてきた。集団生活の中でこころの働きを進化させてきたといっても過言ではない。円滑に生活を維持し、互いの命を守り合うために、何らかの「意味」や「価値」を集団の中で共有してきた。あるいは集団内外の関係性を確認して紛争を平和的に解決することや、集団の生産性をあげることに寄与してきた。つまり私たちは文化を持つに至ったことにより、「群れ」ではなく意味のある「集合」として機能し、生産性や生存可能性を飛躍的に進化させてきたといえる。また、次世代に自分たちが育んだ価値や規範を伝えることを通じて、文化を持続的に発展させることを可能にした。文学や音楽などの芸術や、建築物や道具などの人工物を物理的空間に結実させ、次世代に伝承する。次世代はそうして引き継いだものから学習を進めることが可能になったのである。このように考えると、今を生きる私たちのこころや知能の働きは「文化」からの恩恵なしにはあり得ず、したがって私たちのこころはすでに文化的産物であるといえる。
新型コロナウイルスへの反応における文化差
日本では「Withコロナ」という言葉がよく聞かれるのに対して、アメリカでは“Beat the Corona” 〈コロナに打ち勝て〉である。