津堅 信之
2021年03月01日作成年月日 |
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2021年03月01日 |
津堅 信之 |
住まい・生活 |
ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.127) |
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今や日本のアニメーションは、世界に誇る一大カルチャーとなった。
しかし、近年拡大する動画配信ビジネス、成長著しい中国産アニメの存在など業界を取り巻く急速な環境の変化に、日本は対応しきれているだろうか。
日本のアニメーションの現在地を明らかにし、さらなる発展に向けて求められる施策や課題を考察する。
『鬼滅の刃』大ヒットの衝撃
日本のアニメについて語るなら、昨年は本当に『鬼滅』の年になった。
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が公開されたのは10月16日だから、2020年も残すところ2ヶ月を切ったタイミングだった。それにもかかわらず、その年のほかのエンタテインメントに関する話題を全部吹き飛ばすような勢いで劇場に観客が集まり、興行収入が伸び続けた。その様相はまさに社会現象で、コロナ禍で疲れきった日本全体にも一筋の光をもたらし、活力さえよみがえらせたようだった。
『鬼滅』大ヒットの理由はさまざま分析されている。一途に仲間を思い敵と戦う主人公の真っ正直さが観客の心を捉えたのは間違いないし、コロナ禍で多くの映画の上映延期などが相次ぐ中でスクリーンの空きが多く、ここに『鬼滅』が集中的に上映されたこともある。そして、「そんなに評判なら一度は見に行くか」という、作品ではなく現象として興味を持った観客が集結したのである。
しかし、宮崎駿監督の代表作にして、日本での興行収入歴代トップの座を約20年堅持してきた『千と千尋の神隠し』(2001年)の316億8000万円を超えようとは、誰も予測し得なかった。
ところで、『鬼滅』の大ヒットで連日マスコミを通じて伝えられた興行収入だが、これは映画館にどれだけ観客が入ったのかを示す数値である。記憶に新しいところでは2016年に公開された新海誠監督の『君の名は。』が250億円を超え、これも社会現象とされた。
ただ、『君の名は。』はテレビやビデオ、インターネットなどで先行して発表された作品ではなく、完全に映画オリジナルの作品である。一方の『鬼滅』は、前年(2019年)にテレビシリーズとして全26話が放送され、これも大きな話題になり、そのストーリーの「続き」として制作されたのが映画版『無限列車編』だった。
こうした、テレビで放送された作品の劇場版が非常に多く制作されてきたのが日本のアニメの特徴の一つである。古くは『宇宙戦艦ヤマト』も『機動戦士ガンダム』も、テレビ放送を経てから劇場版が公開されて大ヒットした。