酒井 泰弘
2009年07月01日作成年月日 |
執筆者名 |
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2009年07月01日 |
酒井 泰弘 |
住まい・生活 |
ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.89) |
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アメリカの友人からの手紙
世界は現在、大変な時代を迎えている。ある人は「リスクの時代」といい、他の人は「激動の時代」と呼び、また別の人は「不安の時代」とも称している。
人々の生活はいろいろなリスクに晒されている。株価は上下に激しく変動し、会社の倒産や失業の話がマスコミ報道をにぎわせている。経済がかくも不安定であれば、先の見通しがほとんど立たず、生活設計の基礎自体が揺らいでいるのだ。まさに、生活者にとって「受難の時代」の到来である。
私は最近、アメリカに長く住む友人から、切実な内容の手紙をもらった。
「昔の同僚たちには、特に変わったことはございません。だが、私は株の暴落のために、大学を通じて貯めてきた老後の生活基金が激減しています。定年制のないアメリカですので、退職年度を引き伸ばすのが得策かもしれませんね。でも、私のように既に退職した者にとっては、財布の紐を一段と締めて、景気の好転を待つ以外に、打つ手がありません。
アメリカのサブプライムに端を発した世界同時不況は、退職後の生活を脅かすだけではありません。それはまた経済学と経済学者の実用価値を問うているのですが、多数のノーベル賞受賞者を含むアメリカ経済学会の指導者たちの声は余り聞かれませんよ」
友人の手紙は、いろいろな点で大変示唆的であるように思う。
第一に、アメリカ発の金融同時不況は、庶民の生活設計を大きく狂わせているのだ。特に、投資信託ファンドが株価暴落のために先細りし、退職後の生活がますます苦しくなっている。第二に、アメリカの経済学者の存在価値自体が問われているにかかわらず、リーダーたちはひたすら沈黙を守るばかりなのだ。
「新しい社会科学」の樹立が切に待たれているといえよう。
さて、わが日本の社会経済状況はアメリカの状況とどこまで同じで、どこまで違うのだろうか。このような日米比較を念頭に置きながら、次に、生活者にとっての経済と生活設計とは何であり、またどうあるべきかを考えてみたいと思う。