高田 光雄
2009年03月19日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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備考 |
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2009年03月19日 |
高田 光雄 |
住まい・生活 |
住宅 |
情報誌CEL (Vol.88) |
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団地再生の議論が盛んである。再生技術の開発やメニューづくりも進んでいる。既存の集合住宅に増築をしたり、エレベーターをつけたりする技術も一般によく知られるようになった。「減築」という概念も徐々に浸透し始めている。しかしながら、技術的課題だけが大きく取り上げられて、「何のための団地再生か」という視点がなおざりにされているように感じられてならない。
郊外の住宅団地は、高度経済成長のひとつのシンボルであった。20世紀の後半、大都市への人口集中を背景として、効率性と公平性を重視した計画が次々に実現していった。当初は都市周辺に小規模団地がつくられ、やがて居住関連施設を備えた大規模団地が生まれ、さらに、居住機能を中心とした高水準の日本型ニュータウンが建設されるようになった。
これらの団地には、働き盛りの若年層が一斉入居し、都心に通勤して郊外で暮らす新たなワーク・ライフスタイルを構築していった。団地計画においては、入居者は一定期間居住して住み替えることが想定されていた。多くの団地入居者自身もまたそう考えていた。しかし、現実には、必ずしもそうはならなかった。数多くの初期入居者が居住し続けている団地では、今、高齢化が急速に進行しているのである。一方、エレベーターのない中層住宅の4階や5階では、空き家が目立ち始めている団地も少なくない。
こうした団地は、新たなワーク・ライフスタイルを持つ現代の若年層のニーズには必ずしも適合していない。若年層の入居が継続的に行われなければ、活力の低下は必至である。このままでは、団地は一過性の居住ニーズ吸収装置だったということになる。団地再生の必要性はそこにこそある。
何のための団地再生か。本当に再生すべき対象は、建物や設備ではない。再生を考えなければならないのは、団地の生活でありコミュニティなのである。建物や設備の改善はその手段に過ぎない。もちろん、団地再生の本質が生活の再生やコミュニティの再生にあると言ってみても、具体的な再生の目標は団地によって異なってくるだろう。また、簡単にその目標を設定することも難しいだろう。ただ、建替えを推進したり、改造を推進したりする前に、それぞれの団地の生活やコミュニティの将来像を考えなければならないことだけは確かではないかと思われる。