沢畑 亨
2009年01月08日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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2009年01月08日 |
沢畑 亨 |
エネルギー・環境 |
地球環境 |
情報誌CEL (Vol.87) |
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私は熊本県水俣市の山村部久木野地区で愛林館(市有のむらおこし施設)を運営している。久木野地区は1956年に水俣市と合併した旧久木野村で、当時の人口は水俣市5万2千人、久木野村3千300人。現在は1千人が暮らす山の村である。
旧久木野村の中心部には、かつて国鉄山野線の久木野駅があったが、1988年に廃線となった後、駅跡を活用しようという自主研究グループなどがあったことから、地元の熱意に応えて水俣市が駅跡地を利用して建設したのが愛林館である。役所の都合で降ってくる施設もあるが、愛林館は地元待望の施設であった。
1994年に施設が完成し、館長は全国公募された。私は水俣市ではないが熊本県出身で、当時は東京でコンサルタント的な自営業をしていた。東京の暮らしは情報も多く、師匠(今井俊博氏)の幅広い人脈にも触れて勉強になったが、自分の考えを実践する場所はなかった。
そこで館長に応募し、25人の中から選ばれ、現在に至っている。愛林館は所有者の市が久木野地区の住民団体(各種役員を集めた任意団体「水俣市久木野地域振興会」)に委託費を払って管理をまかせている。私はその会の事務局長であり、愛林館長である。つまり、公務員ではない。
さて、久木野地区は面積約4千300ha、そのうち97%が森林で、谷間に100haの棚田が広がる典型的な山村である。海で起こった水俣病のために、水俣市に海があることは誰でも知っているが、山があり棚田が美しいこと、環境について先進的な政策を行っていることについては、最近ようやく知られてきたところだ。棚田は、県内に11カ所ある「日本の棚田百選」の棚田の中で最も規模が大きく、私は日本一と認定した。正確には日本で一番私の家に近い棚田という意味である。
眺める分には美しい棚田も、実際に耕作するとなると手間がかかる。1枚の田が狭いため、大型の機械は使えない。今でも耕耘機(エンジンで自走はするが、人間が後を歩いて操縦する)が活躍し、田植え機もコンバインも乗用機械は使えないところが多い。平地の水田は1枚で1ha (1万?)近いものもあるが、こちらでは1a(100?)前後のものも多い。
最近の10年で、棚田は「眺めるには美しいがやるのは大変」という認識はすっかり固まった。それ以前の「郷愁を誘う場所」よりは、ずいぶん認識は深まったが、私はもう少し訴えたいところがある。
それは、棚田は山村に人が暮らす社会基盤の一つであるということだ。日本の国土の3分の2は山=森である。九州では森の70%が人工林(人が植えた森)であり、人の手入れが必要だ。手入れをきちんとした人工林は、天然林と同様に環境を良くする働きがある。従来は林業を行うことで人工林の手入れはなされてきたが、今後も現在の材価が続くならば、今後は手入れされないかもしれない。