吉岡 忍
2008年06月30日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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備考 |
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2008年06月30日 |
吉岡 忍 |
住まい・生活 |
食生活 |
情報誌CEL (Vol.85) |
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食べたいものと食べたくないもの
食卓にサラダがある。魚や肉もある。ときどき私は、レタスやトマトやキュウリが、サンマや牛肉がどこからきたかを思い浮かべてみる。
仕事柄、私は全国各地の農家や漁港を訪ねることがある。レタスといえば、信州川上村を訪ねたときのことを思い出す。敗戦直後、日本に進駐した米軍の食料調達係がこの村にやってきて、肥料に人糞を使わないレタス作りを命じた。これが日本のレタスのはじまりとなる。以来、村のあちこちに広がるゆるやかな起伏は一面の畑に開墾され、レタス作りでは日本一になった。
サンマなら宮城県の女川港だろう。秋口の寒い朝、私はまだ暗いうちから起きだして、岸壁で震えながら漁場からもどってくる漁船を待っていた。ようやく会えた船長は無愛想で、口数も少なかったが、黙って船内の食堂に招いてくれ、氷温の水槽から数尾のサンマを鷲掴みにすると、手ずから焼いて食べさせてくれた。冷えきったお腹に染み込んでいったあの味は忘れられない。