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情報誌CEL

乾 正雄

2005年03月15日

灯りとしての「火」

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2005年03月15日

乾 正雄

エネルギー・環境

エネルギー・ライフスタイル

情報誌CEL (Vol.72)

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産業革命と照明

 ヨーロッパを南北に旅行すると、アルプスの南と北とで、対照的に異なる二つの地域が存在しているのを実感する。

 ヨーロッパ文明のはじまりを担ったギリシャや古代ローマのある地中海沿岸は、気候区分では暖温帯だ。オリーブの葉の小さいことが示すように、そこでは夏の高温下での乾燥が際立つ。冬はやや雨が多いがたいしたことはなく、夏の乾燥が支配的なので、樹林よりも、裸の土の平野や禿げた岩山が断然目立つ。

 しかしながら、ヨーロッパの中心は、中世以後、徐々にアルプスより北の方、ブナやナラなどの多い冷温帯へ移動した。そこには現在のイギリス、ベネルックス三国、ドイツ、オーストリアなどがあった。この辺は、夏は過ごしやすく低湿なので雑草が生えず、冬は低温高湿なので冬草が生える。まさに「牧場」なのだが、中世の冬の寒さは現代よりもぐんと厳しかったことだけは忘れてはならない。

 そんな冷温帯の、しかもよりによって辺境の大ブリテン島で、一七七〇年ごろから産業革命がおこった。産業革命といえば、ワットの蒸気機関の発明や、少しおくれてスティーブンソンの蒸気機関車の実用化などが中心と見られがちだが、副産物としての照明器具の発明もけっして小さな出来事ではない。ただ、鉄道のように、昔はなかったものが生じたのとはちがう。ろうそくやオイル・ランプは古代からあったのだが、性能がたいへん劣っていた。なにしろイングランドの僻地の労働者たちは、一八世紀にもまだ、燈心草を豚の油にさしたものを照明としていたぐらいなのだから。近代照明はエポックメイキングな技術革新だったといわねばならない。

 

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