豊田 尚吾
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2008年06月30日 |
豊田 尚吾
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住まい・生活 |
消費生活 |
新聞・雑誌・書籍 |
日刊工業新聞 |
半歩先を見る生活者論/倫理的消費(11)情報多消費型取引で得る豊かさ(おわり)
2008/06/30 日刊工業新聞 35ページ 1051文字
製品は「品質」と「価格」によって評価される。消費者はその二つの情報だけに注目して購買の意思決定をしていれば間違いがない。結果として無駄のない効率的な取引が可能となる。これが市場経済の建前である。
しかし倫理的消費は品質と価格以外にも、それを生産した人、それを作るために犠牲になったもの、それを消費や廃棄する際に発生する影響などに思いをはせて意思決定することを奨励する。たとえそれが製品の品質に何の影響も与えないとしても。見方によればそれは無駄であり、効率性を損なう行為である。そうであるならばその代わりに何を得ることができるのだろうか。
例えば同じ品質のパンがあったとして、障害のある人が作ったパンをあえて選ぶ、あるいは高くても買うとすれば、その人は品質、価格に加えて「誰が作ったかという情報」も加味して購買するかどうかの判断をしていることになる。かつて筆者はそのような行為を情報多消費型取引と定義し論じたことがある。より多くの情報を利用して意思決定するということはある意味でぜいたくな行いである。その代償として考慮すべき事項が増え情報処理が複雑になる。それを豊かだと感じるか、面倒で効率が悪いととらえるか。もし豊かさを感じることができたなら、それこそが「代わりに何を得ることができるか」の答えに違いない。
倫理的消費とは情報多消費型取引であり、そのような豊かさに対するニーズが生活者の中で少しずつ高まってきているのではないかということがこの連載を通じての問題意識であった。
クールヘッド アンド ウォームハート(冷静な頭脳と温かい心情)という英国経済学者のアルフレッド・マーシャルの有名な言葉を借りるならば、倫理的消費は温かい心情の活性化に違いない。とはいえ過度に情に流されず、状況を「冷静」に分析し大局的に判断することも大人の作法である。結局はそのバランスのとり方こそが重要であり、日々、自省すべきポイントなのである。
特に企業人の立場にいると冷静な頭脳を求められることが多く、両者のバランスは崩れがちになる。倫理的消費の存在を意識し考察することは、崩れがちなバランスを回復する一助となる。半歩先を行く生活者を理解し、彼らとよい関係を築くために、今後倫理的消費の考え方が活用されることを望みたい。
大阪ガス エネルギー・文化研究所主席研究員 豊田尚吾
(この項おわり。次回からは三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部エコノミストの内田俊宏氏が「モノづくりの展望―グローバル化の流れの中で」と題して執筆します)