豊田 尚吾
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2008年06月23日 |
豊田 尚吾
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住まい・生活 |
消費生活 |
新聞・雑誌・書籍 |
日刊工業新聞 |
半歩先を見る生活者論/倫理的消費(10)「あえてしない」選択から学ぶ
2008/06/23 日刊工業新聞 31ページ 951文字
電車の優先席を考えてみよう。正規の運賃を支払っているのだから、そこに座ることが悪いわけではない。しかし優先席に座るという行為をあえて選択しない人が多くいる。このように社会の健全化のための障害になるような消費行動を避けることも倫理的消費に含めることとする。
あえてしないという選択は生活のさまざまな場面で見ることができる。例えば、少々不便でも無駄なエネルギーを使わないといった省エネ努力や、食欲はなくなっても食べ残しをしないことなどは多くの人が実践している。また不祥事を起こした企業の製品を懲罰的な目的で買い控えるという話もよく聞く。特に食の分野では安全を求めるニーズと相まって影響力が大きい。それは倒産した食品会社や、廃業に追い込まれた老舗料亭の例を挙げるまでもない。
最近では企業の社会的責任投資(SRI)という考え方も広く知られるようになった。姿勢のよい企業は長期的には発展が期待できるので、そこに投資することが長い目で見て合理的だとの解釈もある。しかし当初はタバコなど、その投資家が望ましくないと考える財を取り扱う企業を投資先から避けるということが、SRIの典型例だと紹介された。
では、しないという倫理的消費の背景には、どのような考えがあるのだろうか。孔子は望ましい徳としての「仁」とは何かを問われた際、「己の欲せざるところ、人に施すなかれ」と答えたという。「しない」倫理的消費の原則もそこに求めると理解しやすい。
自分の体が不自由だとすれば、優先席に健常者が座っていることを歓迎するだろうか。米を作っていたり、空腹でも米を買うお金がなかったりしたとき、食べられるものを捨てられるとどう思うだろうか。このように考えると、しないという倫理的消費には、相手の立場になって考えることができるかどうかという想像力が必要だということが分かる。
そうであるならば、企業人は常に、顧客起点で発想することがプロとしての責務なのであるから本来、倫理的消費の牽引(けんいん)車となれるはずだ。逆に自らの企業でそれができていないとするならば、その理由を考えることを通して、企業体質を改善するためのヒントを得られるように思う。消費者の行動から企業が学ぶべきことは多いのである。
大阪ガス エネルギー・文化研究所主席研究員 豊田尚吾