豊田 尚吾
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2008年06月16日 |
豊田 尚吾
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住まい・生活 |
消費生活 |
新聞・雑誌・書籍 |
日刊工業新聞 |
半歩先を見る生活者論/倫理的消費(9)消費としての寄付活用せよ
2008/06/16 日刊工業新聞 39ページ 966文字
寄付は消費である。そう言われると違和感を持つ人も多いだろう。しかし消費の定義は「欲望の直接・間接の充足のために財・サービスを消耗する行為」(広辞苑)であり、寄付したくて(直接)、あるいはお付き合いでやむを得ず(間接)お金を支出している以上、寄付は消費に含まれる。総務省発行の家計調査年報でも寄付は「その他の諸雑費」の中に分類されており、消費だとの位置づけが明確である。ならば不遇な人に対する支援という意味で寄付は倫理的消費だといえる。
とはいえ寄付は単なる施しに過ぎないのであろうか。「人間には無償の愛というものはできないし、(中略)かならず心の満足という報酬を授かっている」(永安幸正著「経済の哲学」)。あるいは「寄付も一方的にお金を与える行動と捉(とら)えるだけではなく、何を得ることができるかを考えることも大切な視点である」(筑波君枝著「こんな募金箱に寄付してはいけない」)。例えば、ある人が寄付を機に貧困などの社会的課題に関心を持つ。結果として自らの世界が広がり、成長を実感するといったことがそれに当たる。
そうであるならばお金を募る側も、福祉などの専門家としての自覚を持ち、寄付する人に対して、いかに価値ある情報を提供できるかを考えることが重要となる。寄付をする側、受ける側の双方がそのような姿勢で取り組めば、対等な関係を築くことができ、寄付の文化が成熟していく。
現在、寄付には昔ながらの赤い羽根募金もあれば、利子の一部を寄付に充てるボランティア預金や「ビッグイシュー」(300円の雑誌をホームレスが路上販売して1冊当たり160円を受け取るという仕組み)などさまざまな選択肢がある。これもそのような寄付文化形成の助けとなろう。
日本での小額募金などを含めた家計の寄付総額は明らかではないが、全国消費実態調査の支出項目(寄付)から推計すると年間2600億円程度になる。これは欧米と比較すると少ない。寄付行為は手放しで称賛するには課題が多いものの、倫理的消費の側面から検討する余地は多そうだ。
企業では寄付や社会貢献を、企業市民としてのやむを得ないお付き合いと考える人も多い。しかし寄付の持つ人間成長の可能性をうまく活用すれば社員の活性化や自社のブランド向上にもつなげられるはずだ。
大阪ガス エネルギー・文化研究所主席研究員 豊田尚吾