豊田 尚吾
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2008年06月02日 |
豊田 尚吾
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住まい・生活 |
消費生活 |
新聞・雑誌・書籍 |
日刊工業新聞 |
半歩先を見る生活者論/倫理的消費(8)口コミ情報で消費者の信頼
2008/06/02 日刊工業新聞 27ページ 960文字
口コミは企業にとって都合のよい広告とは異なり、中立的な情報として支持されている。特に最近はインターネットの普及により、価格比較や商品使用後の感想などを集めたサイトが数多くある。化粧品や家電、書評、ホテルサービスなど、利用経験のある人も多いはずだ。
口コミ情報の提供は原則として無償であり、自分の利益にはならない。しかし当研究所のアンケートによれば、回答者の約10%は口コミ情報の出し手になりたいと答えている。その理由も「自分の持っている知識や情報が他者の役に立つのであれば、それは望ましいこと」「自分も他者の口コミ情報で助かっているのでお返しがしたい」と非常に互酬的である。
「受けた恩義に将来必ず報いなければならないという義務感は、社会の進歩にとって不可欠のもの」であり、「この報恩感は、人間社会の進化に非常に大きな貢献をしてきた」(ロバート・B・チャルディーニ著「影響力の武器」)。なぜならこのような返報性は自らの資源を他者に与えてもそれが無駄にならず、いつかは自分に返ってくるはずだとの信念を醸成し、相互交流を活発化させるからだ。
近年、消費者行動論でも商品の購入の前に情報を検索し、購買後は感想を提供して情報を共有(シェア)するような消費者像が提示されている。これは口コミのような、使用後の評価を他者に伝える行為も消費行動に含まれることを意味する。従って口コミは人々の交流を促し、共存のための基盤形成の一助となるという意味で倫理的消費の一つといえるのだ。
興味深いのは「自分の持っている知識や情報を他の人に伝えたい」との回答も多いこと。単に人のためという動機だけでは口コミが増えることは期待しにくい。他者に何かを伝えたいという人間本来の欲求を、口コミという倫理的消費を活発化させる助けとして利用することも必要だろう。
口コミの影響力が大きくなってきたため、企業もそれを利用しようという動きがある。しかし自社に有利なように口コミ情報をコントロールするといった近視眼的発想では消費者を裏切ることになる。良い情報は広く伝わるように努め、悪い情報は反省材料として真摯(しんし)に向き合い対処する。それが結果として消費者との長期的な信頼関係構築につながる。そのような姿勢が必要だ。
大阪ガス エネルギー・文化研究所主席研究員 豊田尚吾