豊田 尚吾
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2008年05月19日 |
豊田 尚吾
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住まい・生活 |
消費生活 |
新聞・雑誌・書籍 |
日刊工業新聞 |
半歩先を見る生活者論/倫理的消費(6)地産地消の視点を大事に
2008/05/19 日刊工業新聞 29ページ 955文字
「フード・マイレージ」、「ウオーター・マイレージ」という言葉をご存じだろうか。マイレージとは移動距離のこと。生活に不可欠な食料や水が、自分の口に運ばれるまでに、どれだけの距離を移動してきたかを知ろうという考え方だ。移動にはエネルギーが必要であり、それは環境負荷の面からいえば、小さいに越したことはない。しかし海外で生産して運んできた方が安くなるものも多く、特に日本はマイレージが非常に大きい国として知られている。
倫理学者の川本隆史氏は、一つの財が多くの人の手を伝わってできていくことをおもんぱかることの重要性、そしてそれが“生産”という経済の営みそのものであることを論じた吉野源三郎氏の著作を紹介しつつ、その様な発想を「〈経済と倫理、経済の倫理への問いかけ〉の立脚点としたい」(川本隆史編著「応用倫理学講義―経済」)と述べている。これはまさに別の見方でのマイレージ論といえよう。すなわち流通の効率性(物的視点)だけでなく、だれがどのように経済にかかわっているのかという、人の視点の重要性を指摘している。
これに関して、なるべく近くで作ったものを消費しようというのが地産地消の考え方だ。背景には環境負荷の問題だけでなく、食の安全や安心に対するニーズがある。マイレージが小さいほど生産者の顔が見えやすく、安心だからだ。また地元で生産物が購入されれば、購買力が域外に流出せず、域内で循環するので、地域活性化を考える自治体などには望ましい。そこには地域の中で生きる人の視点がある。
地産地消に対しては取引の自由を妨げるといった批判などがあり、傾聴に値する。しかし購買力の流出が深刻な地方経済では、外からの安い製品で一時的に幸福(効用)を得ることより、(人の集まりとしての)地域社会の基盤を守ることの方が、消費者本人にも重要かもしれないのだ。
毎年5月は消費者月間である。今年のテーマは「活かそう 消費者・生活者の視点」。消費者が暮らしの安全・安心を見直し、その声を企業や行政に届けると同時に、企業が法令順守を徹底し、消費者の信頼を損なわないよう品質管理の向上に努めることがうたわれている。こうした企業と消費者間の信頼のマイルをつなげる視点は地産地消の持つ理念にも通ずる。
大阪ガス エネルギー・文化研究所主席研究員 豊田 尚吾