豊田 尚吾
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2008年04月21日 |
豊田 尚吾
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住まい・生活 |
消費生活 |
新聞・雑誌・書籍 |
日刊工業新聞 |
半歩先を見る生活者論/倫理的消費(2)カーボンオフセット型ツアーに支持
2008/04/21 日刊工業新聞 29ページ 912文字
消費の倫理性を論じる場合、環境問題関連サービスは最もわかりやすい例の一つであろう。
最近、いくつかの旅行会社がカーボンオフセット型ツアーというものを販売している。これは飛行機の利用などで旅行中に発生した二酸化炭素(CO2)を何らかの方法で補償するという企画を盛り込んだ旅行のことである。
行程に植樹などのイベントを取り入れ、木が吸収するCO2と、旅行中に排出するそれとをオフセット(相殺)する。あるいは、旅費の一部を太陽光発電支援などにあて、そのCO2削減効果をオフセットの根拠とするというものもある。追加費用は数百円から千円程度のものが多い。
経済学では、取引の中で発生する社会的な費用を売り手も買い手も支払わず、他人に押しつけてしまうことを「外部不経済」と呼び、効率的な資源の活用上問題であると考える。環境問題で言えば現在、温室効果ガスを排出しても費用はかからない。しかしそれが地球温暖化を加速させて社会に悪影響を及ぼすとすると、その負担を社会全体に押しつけていることになる。その意味で外部不経済性の一例と言える。
そのような行為を潔しとせず、排出者(旅行者)自らが費用を負担しようという意識が、カーボンオフセット型ツアーを生み出している。当研究所が行ったアンケートでは、このサービスの存在を知っている人は3割弱。しかしサービスの内容を説明した上で参加意向をたずねたところ、仮想的な設問とはいえ、一定の支持を得た。
では、その意義は何か。一つは自分の利益に直接つながらない、社会全体に対する配慮も、消費者の選択を促す“価値”になりうる。工夫次第でビジネスとして成立するということである。
さらに重要なのは消費における倫理を分かりやすく見せてくれていることだ。つまり「倫理的価値は社会における人間の共存という最も根底的な関心に基づく」(塩野谷祐一著「経済と倫理」)のであって、ここで言う倫理とは社会で人々が共存するためのルールだということである。これは外部不経済性よりも広いとらえ方だ。
自分の生活は周りの人々との共存があってこそ成り立つ。それを守るために消費者として何らかの貢献をすべきだという発想が、倫理的消費の基礎となるのである。