豊田 尚吾
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2008年04月27日 |
豊田 尚吾
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住まい・生活 |
消費生活 |
新聞・雑誌・書籍 |
日刊工業新聞 |
半歩先を見る生活者論/倫理的消費(3)太陽光発電、発想の転換を
2008/04/28 日刊工業新聞 23ページ 954文字
再生可能エネルギーに対する関心が高まっている。中でも太陽光の利用はその代表格であろう。
地球に降り注ぐ1時間分の太陽光エネルギーで、人類の1年分のエネルギーがまかなえる。とはいえ、広く薄くしか存在せず、利用可能なエネルギーへの変換効率が悪いため、太陽光利用は採算が取りにくい。
例えば、太陽光発電パネル取り付け費用を200万円、節約できる電気料金を年10万円とすると、もとを取るのに20年かかる。加えて変電装置を取り換えるなどメンテナンス費用も考えれば、効率の良い投資とは言い難い。とはいえ日本の太陽光発電設備の設置容量は累計で約170万キロワット(2006年末)とドイツに次いで世界2位だ。
当研究所が行ったアンケートでは回答者の32%は採算が取れなくても、金額によっては太陽光発電設備を設置してもよいと答えている。理由は「環境問題への貢献」が圧倒的に多く、「次世代への配慮」も上位である。他者との共存への慮りという倫理性は、エネルギーの選択でも一定の影響力を持っている。
太陽光発電のように最初に多額の購入費が必要で、何十年もの間利用するといった財では、消費者のとらえ方が重要になる。つまり、初期費用を電気代の節約で回収するといった投資的フレームでとらえるならば、何年でもとが取れるかといった採算性が意識され、太陽光発電の魅力は乏しくなる。一方、車と同様に値段は高いが長年それで楽しめるという消費プロセスに注目すれば、採算性という考え自体があいまいになり、財の特性そのものが主役となる。
したがって、現段階での太陽光発電の普及には、投資ではなく倫理的消費の意義を啓発するフレーミング(問題の枠設定)がポイントとなる。「選択肢の客観的特徴が全く同じでも、その問題の心理的な構成の仕方によって、選択結果が異なることがある」(印南一路著「すぐれた意思決定」)のだ。
ただし、ドイツが設置容量世界1位になった背景にはFIT(再生可能エネルギーを電源とする電気の固定価格買取)制度があることは知られている。アンケートでも、10万円未満の追加支出なら設備導入を考えるという答えが多かった。当然、採算性は無視できず、それとのバランスをうまく保つことが、もう一つの重要事項である。
大阪ガス エネルギー・文化研究所主席研究員 豊田尚吾
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